あの流れ星に
たったひとつの
願いをかける

ここにあるのは優しい光




流れ星






KIRBY STORY  〜流れ星〜 願い事




「ほら…カービィ君。君の仲間は皆、死んでしまったよ。」
エリウェーラは銅像のように固まって動けないカービィにそう、言います。
マルクが、アドが、フォウスが、シルトが、アルゴルが、メタナイツが、メタナイトが消えて。
もはや誰もカービィの周りにはいませんでした。

――貴様等は…確実に…死ぬぞ。全員…一人…残らずな……。

全てゼロの言った通りになってしまった。カービィはぼんやりする頭でそう思います。
結局、全てを賭けて、必死になってゼロを倒しても、何も無かった……。
ただ有るのは『絶望』という名の現実だけ……。この、荒涼とした世界だけ……。
「サー君……。」
灰色の雨が降り出してきました。

「どうだい?今の気持ちは?カービィ君♪」
エリウェーラがカービィの隣に座ります。
「何で……君はこんなこと…するの…?」
カービィはゆっくりとエリウェーラへ向き直ります。
「何で?そうだね…計画の目的、言ってなかったかもしれないねぇ。」
エリウェーラはにこりと微笑みます。
「目的は…君だよ。」
「…えっ…僕?」
カービィは顔を歪めます。
「そう、君。君の力が欲しいんだ。僕は。」
「僕の…力?」
「君は僕が知っている中で、一番のお人好しで、優しくて、慈愛に満ちているからだよ。
 そんな人程……壊れると『邪』のエネルギーを多く出してくれる。」
エリウェーラは続けます。
「恐怖、憎悪、狂気、殺戮、破壊、混沌、絶望、苦痛、死………
 君がそれらをより多く感じてくれることが僕の願い♪君がそれを感じてくれることで…。」
雷に辺りが光りました。
「君は、上等な邪の塊になってくれる。僕の餌にね♪」

雨は戦場の血を洗い流しています。皮肉な程に…美しい雨が降ります。
「君は充分『邪』を溜め込んでくれた。ありがとう…感謝するよ。『邪王』として……。」
エリウェーラの銀髪の先からも、雫が落ちました。
「…エリ………ウェーラ……。」
「さぁ、もう君は立てるはずだ。術も解いたし、ショックも、もう感じないだろう?」
エリウェーラは立ち上がります。雷光が彼の顔を照らしていました。
「仕上げに入ろう…♪僕の餌になる為に…君も死ぬんだ。」
カービィも立ち上がります。もはや、何をすることも無いのです。
しかし、カービィはエリウェーラに、立ち向かわずには、いられませんでした。

戦いながらカービィは語りだしました。
自分の目の前に居るのは敵です。しかし、その半分は自分のかけがえの無い人でもあるのです。
そのかけがえの無い人に届けるべく、カービィは語りだしました。
「サー君とは…大体二年間の…付き合いだね……。随分、長い気もするし、短かい間の気もする。
 出会ったあの日も…今日みたいに雨が強かったよね…………。」
「……昔の話かい?カービィ君。『サーキブル』の……。」
戦闘も…語りも、続きます。
「あの日……僕は不意をつかれて…怪我をしてた。それも酷い怪我を。
 雨に濡れて、どしゃぶりで、寒くて……本当に、あの時は辛かったんだ……。」
カービィの言葉はまるで、自分を死地へ送る為の餞のように聞こえます。
『大切な何かを忘れない為』の……。

「そんな時に…サー君と逢った。僕はサー君の敵だったはずなのに、サー君は味方を裏切って、
 その味方達に立ち向かっても、僕を助けてくれた。」
カービィはエリウェーラ、いえ、サーキブルにでしょうか。笑顔をつくりました。

「―――嬉しかった。」

その時、エリウェーラの剣がカービィの右手を飛ばしました。
「これでも…笑っていられるのかな?」
冷たい刃の感触が腕から抜けても、熱い血の感覚が腕から抜けても、
やはりカービィは笑っているのでした。

「あと、二人でグラスランドにピクニックに行ったときのこと、覚えてるかなぁ。サー君。」
カービィは…更に話を続けます。
「あの時、お昼を食べながら、サー君が言ったこと覚えてる?
 『私はカービィさんの敵でもなくて、ヘルパーにもなりたくないんです。』って。」
エリウェーラはもう一度剣を振りました。
「『私を、友達にしてくださいね』って……。」
カービィの身体を刃が大きく切り裂きました。そのままカービィは地面に叩きつけられました。
雨が、激しくなってきました。

「色々…あったよね……サー君。」
血だらけでなお、カービィは立ち上がってきます。
「でも、みんな…みんな、楽しかったよね。いい思い出だよね。」
エリウェーラは迫るカービィを払いのけます。
「ちっ!黙りなよ。『サーキブル』にはどうせその声は届かないよ!」
カービィはまた立ち上がります。何度でも。
「楽しくて…幸せってこんなことを言うのかなって、思ったんだ…。でも…何でだろう。
 僕、気付いたんだよ。サー君。」
カービィは、哀しくなるような、笑顔をして言いました。


「幸せな時は…いつでもすぐ終わっちゃうね…。」


 カービィは片腕でエリウェーラを掴みます。
「ねぇ……サー君。何で『幸せ』ってこんな小さくて、弱々しいものなのかなぁ…?」
「……知らないよ!離せ!君は僕の餌として、死ねばいいんだ!」
エリウェーラの剣がカービィを縦に深く切り裂きます。
「君は『幸せ』なんか味あわなくても良いんだ…。死を、味わってれば!」

そして、エリウェーラの突きがカービィの胸を貫きました。
ハッと気付いた時はもうすでに、鮮血が迸っていました。
カービィは、ゆっくり崩れ落ちました。闇へ。
「……やっと、倒れたか…。」
その時、雨が突然あがりました。雲が切れて、空が開いていきます。
すっかり夜が広がっていました。満天の空に星が一面、散らばっています。
その空をカービィはぼんやりとする意識で眺めました。

きらっ、と光が動きます。流れ星が一筋…流れているのです。


―――カービィさん、流れ星が消えるまでに、三回、願い事をすると、
   その願い事が叶うんですよ。
―――へぇぇ…サー君物知りだねぇ。じゃあ僕も願い事してみようかな?
―――カービィさん、何を願い事するんですか?
―――えっとぉ…それはねぇ……


カービィは、おもむろに眼を閉じました。


―――もう、何が叶わなくてもいい。
   だけど、最期に一つだけ、流れ星さん…。叶えてください。


―――サー君に会えますように サー君に会えますように サー君に会えますように…


カービィの目に涙がひかりました。

「…儚い…願い事だね。泣けるじゃないか…カービィ君♪」
エリウェーラが倒れているカービィの横へ、腰をおろします。
「もう…君も逝きなよ。僕の力になるんだ。」
エリウェーラは光の大剣を振りかざしました。
カービィはその刃を見つめていました。月の光が二人を照らしていました。

「サー君……。」


その時、異変が起こりました。
「なっ!?何だよこれ!?何が!何がおこったっていうんだよ!?」
エリウェーラの身体に、次々とひびが入っていきます。
カービィは呆然と、その光景を見ています。
「な…何だ……僕が…崩れていく…!?砕けていく…!?『邪王』が…砕ける!?」

その時、聞きなれた声が聞こえてきました。

「それが…『信じる』ってことの力ですよ…。エリウェーラ…。貴方の負けです。
 カービィさんは最後まで私を…信じてくれた。」

「サー君!」

「馬鹿な!?サーキブルの封印は、二度と解けるはずが無いのに!?」

どこからともなく聞こえる声は、懐かしい響きをしていました。
「何故!?何で僕が砕けていく!?サーキブル…、君か!君の仕業なのか!
 サーキブル!止めてくれ!助けてくれ!砕ける……!」
エリウェーラの身体はひび割れ、ぼろぼろと崩れ落ちていきます。
「『邪王』が…!君達に負けるはずが…!」
かっと光が戻ります。
カービィの目の前でエリウェーラは光に包まれて見えなくなっていきました。

「サー君…?」
見覚えのあるシルエットがカービィに向かって歩み寄ってきました。
「カービィさん…ありがとうございました。」
カービィは言葉もなく、涙を流しました。

「カービィさんのおかげで…私はここに戻ってこられました……。」
サーキブルは倒れて動けないカービィを抱きかかえます。
「…でも、私は結局、戻るべき資格は無いのです…。カービィさん。」
「どういうこと…サー君?」
「この星全ての滅亡…。私は…罪を犯しすぎたのです…。
 私が戻ることで、皆がいなくなるのは犠牲があまりにも大きすぎるのです。」
「サー君?」
「カービィさん、私はすでに決心しています。」
そう言うと、サーキブルはカービィを地面へ降ろしました。
「私がいなければ、自動的にエリウェーラの存在は消えるようになります。」
「は……ちょっ…何言ってん……意味分かんな…。」
「私の生はエリウェーラと一対の物……このままここに生き続けていても、私は結局…。」
「……………。」
サーキブルは両手を天にかざしました。
「カービィさんの…言った通り……ですね…。」
「えっ…?」
不意に、遠くに光が現れました。
「幸せな時は……いつも、すぐ終わってしまう…。」
光は段々と近づいてきました。

「私はカービィさんに逢って、本当に、良かった。一緒に笑いあったこと、冒険したこと、
 時には喧嘩もしましたよね……。」
その光が何なのか、カービィはやっと確認することができました。
「ギャラクティック・ノヴァ!!!!」
カービィは願い事をしなかったので、今でも願い事は一つ、叶えられるはずです…。
「カービィさん…もし、カービィさんが忘れても、きっと私は覚えています。」
サーキブルはカービィを背に光、ノヴァを迎えます。
「サー君!な…何をする気なの!?だ…ダメだよ!
 ずっと僕と一緒に居てくれるんじゃ無かったの!?ねぇ!サー君!」
「カービィさん…私は貴方にたくさんのものを貰ったんです…。かけがえのないもの……。
 それだけで…私は充分だから…。安心して、下さいカービィさん。」
カービィはふらつく足元のまま、立ち上がりました。
「サー君!待って!待ってよ!せっかく、せっかく元に戻ったのに…!サー君!」
「カービィさん………。」

―――さようなら。
ノヴァの前のサーキブルの姿が、涙で見えなくなりました。
カービィは、その時サーキブルに向かって駆け出していました。


「ギャラクティック…ノヴァ……!私の、エリウェーラの存在を、この世界から!
 最初から無かったことにして下さい!」


 伸ばしたカービィの手がサーキブルに触れた…。
その瞬間、サーキブルの身体の感触が、消えました。

ギャラクティック・ノヴァは、願い事を叶えると、そのまま空へ昇っていってしまいました。
カービィはその姿を、枯れ果てた瞳で、見送りました。

「サー君は……。」

その時、空が金色に光りました。光の筋が幾筋も幾筋も、空の彼方から降っては光を満たして、
灰色の大地を照らしていきました。そう、それは…

「流れ星……。」

空を埋め尽くさんばかりの流れ星が降ります。
煌く星。カービィはその輝きの中で、ゆっくりと、瞳を閉じました。
頭が真っ白になって、カービィはそのまま気を失いました。

流れ星は、荒涼とした大地をまだ照らしつづけていました…。いつまでも…。



NEXT STORY・・・流れる星



★用語解説★

邪の塊・・・エリウェーラの真意。カービィを邪悪なエネルギーで満たし、
      それを自分の魔力に変えること。
ギャラクティック・ノヴァ・・・カービィが願い事をしていなかったから、まだ叶えられる。
              サーキブルの存在を、今消せばエリウェーラの存在もまた、
               最初から無かったことになる。そんな哀しい願い事。
流れ星・・・この小説のタイトル。そして最後のキーワード。

★第二十八幕のあとがきっ★
この話で泣いてくれる人が居たら星影の小説は大成功だったりする。(そんな人いない。)
一番力を入れて、そして一番哀しい話。
それでは最終話を、読んでください。ハッピーエンドに一歩届かない終幕。





Back Top Next