あの流れ星に
たったひとつの
願いをかける

ここにあるのは優しい光




流れ星






KIRBY STORY  〜流れ星〜 流れる星




アルゴルの悲劇、ゼロの侵略、エリウェーラの計画、全ては何も無かったことになりました。
それと同時に、サーキブルの存在、ミルキーロードの冒険、仲間との出会い。
その記憶も全て、彼等の記憶にはありません。
今日もまた、呆れるほど平和な一日が、やってきました。

朝日が、昇ろうとしています。
この四季の星フロリア、ベレー帽を被った少女は朝早くからキャンバスに向かっていました。
「よしよぉーし♪この瞬間よ♪この朝日の光に照らされる山々の美しさ!
 創作意欲が湧いてくるわねぇー♪さぁー、描くぞぉー!」
少女、アドは筆を取ります。
そして、真っ白なキャンバスに向かって殴るように乱暴に描いていきます。
これが『殴り描き』というものでしょうか。想像を絶する荒っぽさです。
「よし!完成!」
制作時間、およそ三分!なんという早業!
しかも先程の『殴り描き』とは裏腹に、なんとも綺麗な、緻密なタッチの作品です。
本当に人間でしょうか。彼女。
「うんうん。なかなか今日のは上出来みたいね。この沈もうとしている夕日の色が出てるわ。」
……彼女、朝日を見ながら夕日を描いていたみたいです。
なんともつっこみ所が多い人です。星影はつっこみで大忙しです。
「よぉし、朝の作品も終わったから、ご飯でも食べよっかな♪」
アドの朝ご飯は、ビーフステーキ、シュークリーム、お寿司、杏仁豆腐、あわび、です。
……先程とは違う意味で、彼女が人間かどうか疑います…。
「ふぅ…何にも事件が起こらないなぁ。それが平和ってやつなのかなぁ。」
アドは大きく伸びをして、空を仰ぎました。

「す…すみませんなのサ!」
ここは天空の星、スカイハイの魔術学校です。
二股の帽子をかぶった学生が、先生と思われる人に一生懸命謝っています。
「いや、ホントもう絶対しないのサ。だからホント、許してほしいのサ。大魔道師サマ!」
「…そうとはいえ…マルク。お前、そのセリフは何度目だ!」
マルクは大魔道師の言葉に一瞬、考えます。
「……えーっと…前回言ったのが昨日の夕方で…その時に68回目だったから……
 いや、まつのサ。昨日の夕方は70の大台に乗ったはずなのサ…。えっと………。」
ぶつぶつ考えているマルクの頭に大魔道師の杖が炸裂します。
「うわっ!やめて!やめてほしいのサ!もうしませんから!しませんから!」
「ええぃ!うるさいわっ!マルク!お前は根っから叩きなおさないといけないようだな!」
 逃げ回るマルクの頭に、尚も杖は振り下ろされます。
「ホントなのサ!もう魔道師サマの壺を魔法の練習に使ったりしないのサ!
 今度からは魔道師サマの盆栽で魔法の攻撃を練習するのサ!」
「えぇい!同じことじゃ!やはりお前の根性から叩きなおしたる!」
ドタバタと校内を走り回る二人。他の学生は驚くことも無く、笑っています。
……慣れているのでしょう。
「あぁ…平和な毎日が過ごしたいのサぁー!」
マルクの叫びが校内に響き渡りました。

洞窟の星、ケビオス。
「お!いたぞ!レーダー通りだ!」
聞き慣れぬ声に振り返ります。水色の髪の少女…いえ、彼は男です。
「…チッ……手間かけやがって…。」
「おいおい…そんなこと言うな。フォウスがこの星に落ちたのは宇宙船の設計ミスなんだぞ。」
フォウスは今やってきた二人の男に視線を向けます。
「ほら、何してんだ。フォウス。さっさと帰るぞ。ギヴァルス様が待ってるぞ。」
「……ったく、このノロマ。早くこっち来いよ。」
フォウスは首をかしげます。
「あの……失礼ですが、どちら様でしょう?」
二人の男は顔を見合わせます。
「おいおい…冗談はよせ。フォウス。俺達を忘れたってのか?」
「………チッ…。また、面倒臭ぇことになりやがったな……。」
フォウスは未だ状況が理解できません。
「あぁ…あのだなぁ。俺達はギヴァルス様の命で惑星探査をしていたんだが、
 お前の宇宙船だけ欠陥品だったもので、お前はこの星に墜落してしまったんだ。」
「そう。それでお前は、その時の衝撃で記憶がぶっとんじまったんだろぉな。
 分かったか?分かったらさっさと歩け。」
フォウスは口の悪い、一方の男に、強制的に引きずられて洞窟を出ました。
「ってなわけでな、さぁ、帰るか。ギヴァルス様なら記憶喪失くらい治してくれるさ。」
「…おら!そんな顔してんじゃねぇ!帰るっつてんだ。ほら、行くぞ。」
首をかしげながらも、フォウスは宇宙船に乗り込み、
自分の帰るべき場所に戻っていきました。

ここは水の星、アクアリスです。一人の少女が海の近くの家から、外を見ていました。
「わぁぁ♪いい天気よ。お兄ちゃん。海に行って泳いでこない?」
お兄ちゃんと呼ばれた青年は扇風機に顔を近づけて、風を独り占めしています。
「あぁぁ?海?俺疲れてるからティア一人で泳いでこいよ。」
少女は眉間にシワをよせます。不服そうです。
「疲れてるって…。お兄ちゃん、朝から何にもしてないじゃない!何で疲れるのよ!」
アルゴルは超低速なスピードでティアに向き直ります。
「……大人になると、色々と大変なんだよ…。」
ティアは溜息を一つ、つきました。
「はぁ…お兄ちゃんジジくさぁーい……もう、いいわよ。私、シルトさんと海で泳いでくるから。」
アルゴル、その言葉に跳ね起きます。先程の超低速と相対して、そのスピード、超高速。
「ダメだ!ダメだぞ!ティア!あんな奴と海に行くなんてダメだ!お兄ちゃんは許さんぞ!」
「な…なによぉ…シルトさんと海に行くのが、そんなに悪いの〜ぉ?」
「ダメったらダメだ!年頃の男女二人で海へ行くのがどんなことか分かっているのか!」
アルゴル、真剣に語ります。
「海…海といえば水!水といえば水着!水着といえば男のロマン直撃の悩殺スタイルだぞっ!
 お前が海へ行こう♪と男を誘えばそれは口説いているのと一緒だぞ!」
アルゴルの言葉にティアは微動だにしません。
「ふぅーん…私はそれでもいいけど。シルトさんって家庭的だし、優しいし。」
「ダメだぁ!お兄ちゃんは断じて反対だぞぉ!あんな男のどこがいいんだぁ!」
複雑な状況に陥るアルゴル兄妹。その場面にもう一人割り込んできます。
「あれ…?喧嘩か?アルゴル達。」
「シルトっ!!!!」 「シルトさんっ♪」
突如現れたシルトの介入で、事態のますますの混乱は必須です。
「あのっ、シルトさん一緒に海に行きませんか?」
「ええっ!?」
シルトはいきなりのティアの発言に赤面します。
「てめぇ!シルト!『いいよ♪』なんつったら俺が許さんぞ!絶対に行くな!
 もし行ったら毎日お前の家の牛乳、全部飲み尽くしてやる!全部だ!
 それに回覧版もお前には絶対回さないぞ!お前のこと飛ばして次の人に渡すからな!」
赤面中のシルトの足をアルゴルが掴んで離しません。
「もぉ!いいじゃない!ちょっと海行くくらい良いでしょ?お兄ちゃん!ねぇ、シルトさん?」
「シルト!行くんじゃねぇぞぉ!行ったらお前の家の前にいつもモアイ像置いとくからなぁ!
 それでお前の家はモアイ屋敷とか呼ばれるんだぞ!それが嫌だったら行くんじゃねぇぞ!」
……つくづく、シルトは可哀想な人です。

そして、ここはポップスター。ポップスターの時計は今、十二時ジャストです。
「…おい、もう十二時だぞ。訓練の時間じゃないのか?」
アックスの声に皆各々、立ち上がって外の訓練場を目指します。
「っはー!やっぱ訓練!訓練だぜぇ!おら!ジャベリンやろうぜ!」
「………トライデントとはやりたくないな…。」
「あぁん?何でだよ!この俺様が相手になってやろうって言ってんだぜ?」
「………いや、お前弱いから。」
結構ジャベリン、酷いです。トライデントは白くなって固まってしまいました。
「あれ?メイスが来てないんじゃないか?どこ行きやがった?あいつ。」
アックスがメイスの存在が無いことに気がつきます。その時、
「ハッハッハダスーっ!ワス、やったダスよぉーっ!」
メイスの姿が、屋根の一番高い所にあります。そこから、何やらメイスが叫んでいました。
「何だよメイス?何があったんだよ。そんなとこで。頭が遂におかしくなったか?」
「ねぇ、アックス。こういうのを馬鹿っていうんだよね。」
「ぬぅ…ワドルディまで…酷いダス…。せっかくワスがものすご―――っく、良い事、
 教えてあげようとしてるんダスけどねぇ。」
おもむろにメイスが自分の携帯電話を取り出します。
「何だぁ?携帯がどうしたっつーんだよ?」
「………携帯…持ってたのか…?」
メイスは自慢気に語り始めます。
「んふっふー♪聞いて驚くダス!なんと…なんと、ワス、やっと彼女が出来たんダス―!」
「何ぃーっ!?」
一同、何ぃーっ!?が重なります。
「ふっふー♪チャットで知り合った女の子と仲良くなって、
 それで携帯のメールでその子とやり取りしてるんダスよぉーぉ♪」
一同は顔を見合わせ、「その女の子、気の毒に」等と、会話を交わしています。
「……随分騒がしいな…。何事だ?」
やかましさにメタナイトが顔を出してきました。
「あっ、メタナイト様。いえね、メイスが携帯で彼女が出来たって騒いでるんですよ。」
「ほぉーぉ…。」
メイスが携帯をぶんぶんと振っています。
「それじゃー!今からその彼女に電話をしてみたいと思いまぁーっす!」
「おおぉーっ!」
周りから歓声があがります。
「あぁー…緊張するダスなぁ…電話は初めてなんダスよねぇ……。」
そして、メイスは番号を入力し、ボタンを押しました。
緊張の一瞬……その時!
『プルルルルルッ プルルルルルッ』
響き渡る携帯の着信音。重苦しい空気の中で、アックスがやっと口を開きました。
「メ…メタナイト様……?」
メタナイトの携帯電話に、着信がありました……。
太陽は高く、昇っていました。

「ああぁ…!よく寝た。ん?まだお昼じゃん。もう一回寝よ…。」
ここはカービィの家。いつも通りの一日が、今日も続いていました。
もちろん、カービィの記憶にサーキブルという人物はありません。
「はふーぅ…あぁ、さすがにもう、寝れないかなぁ……。」
カービィはメタナイト型の抱き枕を抱きしめています。
「あー…お腹空いたなぁーぁ…。何かないかなぁー。」
その時、ポストにカタンと、何かが落ちました。
「食べ物!」
カービィは何か、勘違いをして外へ出て行きました。
そして、ポストの中を覗きました。
「あり?手紙?」
さもがっかりした様子で、カービィは手紙を取ります。

黒地の封筒に、きらきらと光るものがあります。星空の様な封筒です。
「差出人…書いてないや…。誰だろ?」
カービィはびりびりと封を乱暴に切って、中身を取り出しました。
一枚の紙に、ほんの数文字だけ、メッセージが書いてありました。
「えーっと…『ありがとう カービィさん…』…えぇ?誰だろう。名前も書いてないや。」
その時、何かが封筒から落ちました。
「うわっ。何だ何だ?」
カービィはかがんで、それを拾いあげました。

それは小さな小さな星のキーホルダーでした。
とても可愛らしい星の飾りが、陽の光を反射させていました。
「へぇーぇ…綺麗なキーホルダーだねぇ…あれ?何だこれ?」
カービィは、キーホルダーに刻んである文字に気付きました。
何か…ひどく懐かしい文字に。

―――『カービィさんへ サー君より』


真昼の空に流れ星が一つ、流れていました。



THE END



★用語解説★

何も無かったこと・・・カービィ達の冒険は全て無かったことになってる。
           だから、第一話の話さえ、今の彼等には無いことなのだ。
           そして、これからも無いこと。だって、平和だからね!
朝日・・・悲しみの陰の無い日が昇る
     平和の鐘が遠くで鳴る
毎日・・・いつもの一日が始まっていく
     僕はこの道を 君はこの道を進むんだ
帰る・・・帰る道は考えないでいこう
     だって 僕らが進むのは希望の明日
海へ・・・打ち寄せる波のように
     僕らの時は過ぎ去るものだけど
太陽・・・信じることの素晴らしさ
     今になってやっと気付ける
星空・・・流れ星を見つけたら 願い事をしよう
     信じること 笑えること 今泣けること
     全て包み込んで 願い事をしよう
     真昼の流れ星でも       (朝日から星空まで、星影の駄詩になってます。)
ひどく懐かしい文字・・・信じていれば願いは叶うもの!

★最終幕のあとがきっ★
アフターストーリー。幸せな時は過ぎる。
皆が幸せな、いつもの毎日を過ごすこと。それがサーキブルの願い事だった。
信じるってことを題に今まで書いてきた小説。
読んできてくれた人、本当にありがとう!





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