あの流れ星に
たったひとつの
願いをかける

ここにあるのは優しい光




流れ星






KIRBY STORY  〜流れ星〜 双龍




シルトは手袋をはめました。それと同時に、薄い霧の様だった地面に土が敷かれました。
「私はこのフィールドが、一番力を出せるのでね。」
シルトの笑みには、不気味なものを感じました。
「……アドさん!戦闘準備!」
「えっ?はっ…はいっ!」
フォウスの武器は普段の剣のタイプから、変形してハンマーの様な形になりました。

「ほぉ。変形する武器か。変幻自在の技が繰り出せそうだな。だがっ…。」
フォウス達は次の瞬間、自分達がシルトの術中に完全にはまっていることを自覚しました。
「それがこの私にっ!どこまで通用するのかぁー!?」
地面、土から真っ黒なシルトがボコボコと這い上がってきました。
それも、一人ではありません。四方八方から何人も何人も這い上がってきたのです。
「アドさん…!なるべく!たくさんのキャラ描いて下さい!」
言っていませんでしたが、アドの能力は描いた絵を具現化することができるのです。
アドは筆に色をのせると、流れるように描いていきました。
「アドさんが描き終るまで…僕が守らなきゃ!」
「私の『土影』は…、オリジナルの10分の1にも満たないが。まぁ、これだけの数だからな。」
シルトの言葉には全く耳を傾けず、フォウスは気を溜め始めました。

「――重き翠の力に天戒を受けよ!四神光臨!」

フォウスの攻撃が炸裂します。
「―――玄武!!!!」
その槌の攻撃で、フォウスからシルト側までの地面は唸りをたてて裂けました。
直線状に並んでいた『土影』達は超振動に砂となりました。
「……おもしろい攻撃があるもんだな。」
シルトには『全く』効いていません。シルトの微笑がそれを示していました。
「――っ!アドさん!絵は?」
「できたよっ!」
アドのキャンバスからは大量にキャラが流れ出してきます。
キャンバスからシルトまでに、絵から出たザコキャラの大群の道が出来ました。
「数で勝負よ!この大群受けきれる?」
ザコキャラ達の道は、シルトに激突します。
「やった!」
その時、べりっと何かが裂けた様な音が響きました。
「…量を増やしてもまだ私の力には遠い様だよ。」
シルトの手は先頭のキャラ一体の腹部を突き抜け、それでキャラ全員の勢いを止めていました。
「君達は…弱いね。」
シルトの言葉と同時に、キャラの軍隊は現れた影に飲み込まれてしまいました。
「暇潰しにも…ならないよ。まさかこれが君達の限界だなんて言わないだろうね。」
フォウスとアドは自分の前に立ちふさがっている敵があまりにも大きい者であると感じました。

「君達は最初は仲間にいなかったよね。」
シルトは『余裕』といった感じで話を始めました。
「何で君達はこの私達に歯向かおうとするんだろうね。」
フォウスは構えを崩してシルトを見つめます。
「…僕は……惹かれたんですよね。あの人達がやろうとする事に。」
シルトは微笑みをまた作ります。
「それだけの理由で…、連れて行ってもらうように頼んだワケか?」
「違うよ。私はカー君達の手助けがしたい事と同時に、あなた達が許せなかったの。
 あと、正直に言うと自分の為っていうのもあるかな…。」
アドも言いました。
「理由はとにかく、僕等は君達を倒すよ。」
「………できるのか?」
「分からないけど…やるしかない!君達のせいで、誰かが苦しんでいるなら僕等は君達を倒して、
 その人達を助けるしかない!」
シルトはその言葉に対して言い切りました。
「無理だよ。」

刹那、フォウスの右肩を重い衝撃が襲いました。
「あああぁぁ!」
フォウスは痛さに叫びます。右肩から血が流れ出しています。
「ほら…、君はこの攻撃を避けられない。」
アドレーヌにも同じ衝撃が襲います。
「ううぅっ…!!!」
アドレーヌの足からも、血が濁流の様に流れ出しています。
「断言しようか。君達の力を合わせても…私の…力に及ばない。」
シルトの周りには土の塊が数十個浮遊していました。
先程の攻撃はこの塊によるものでしょう。
「せめて…この『大地と影の悪魔』の力…全てを結集して、君達を葬ってあげよう…。
 切り札……『黒方陣』…。」
フォウスが態勢を立て直す前に、それは襲い掛かってきました。
フォウス達の周りの地面から、土の塊は湧き出す泉の如く、浮き上がってきました。
それが流星の様に次々とフォウス達の体を傷つけていきます。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
シルトは冷たい目で言い放ちました。
「君達は勇敢だったよ。でも勇敢にもう一つ、付け加えようか。君達は……。」
シルトは彼等が苦しむ姿を背に向けて、ハッキリとした口調で言いました。

「無謀だったね。」

血だらけの身体でも、闘志は燃え尽きていませんでした。
フォウスは何も考えないまま、それを放っていました。

「青龍―!!!!」

油断したシルトを巻き込んで、エネルギーの濁流は進行を続けます。
アドの周りの『黒方陣』が一瞬途切れました。
「アドさん!もう一頭!」
アドはボロボロになった体で、全て悟ったかの様に流れるように描いていきました。
「ぐっ…ぬかったわ…!貴様にまだ…これだけの力が残っているとはな……!」
シルトは精一杯にフォウスの『青龍』を食い止めていました。
「僕達は…!君等を倒さなくちゃ進めないんだ!」
「何故そこまでして歯向かう!逆らおうとする!」
「逆らうだけの……理由があるから!!!」
アドから何かが渡されました。フォウスの両手が再度、蒼く輝きました。
「二つ!?」
アドの描いたものはフォウスの武器でした。そして…フォウスの武器ということは…

「シルトぉ!僕は四神、フォウスの名にかけて!貴様を倒す!」
「馬鹿なぁ!アルゴル以外にこの私を!!!貴様等!貴様等がぁぁぁーっ!」
「煌く瑠璃色の龍よ!その力にて天戒を放て!四神光臨!!!!」

「双龍――っ!!!!!」

「……貴様等………がぁぁぁーっ!!!!」

長い間、カービィ達を苦しめた『悪魔』は今、正義の双龍によって地に倒れました。



NEXT STORY・・・再戦



★用語解説★

このフィールド・・・シルトは土を操作する能力を持っているから、土があると有利なのだ。
土影・・・粘土人形でシルトそっくりの分身を作る。この場合、魂を入れ込む必要も無い。
玄武・・・四神光臨の一つ。四神の亀の力を借りて、その槌の破壊力を増強する。
      そんな技。そんな毎日です。
黒方陣・・・土の固まりを相手の周りに浮遊させて、それを高速でぶつける。
       なんかビジュアル的にはすごく地味だけど、かなり痛いと思うのさ。
双龍・・・アドが描いてくれたもう一つの武器を使って、青龍をダブルで放つ。
      ダブルで放てば威力は二倍!と思いがち。でも本当は更に強い。

★第十九幕のあとがきっ★
正義っていう基準は、やっぱりこれも曖昧なものだけどさ、
人を傷つけることは絶対に正義じゃないと思うんだよね。犠牲を伴う正義って言っても、
人を犠牲にして良い道が開けるわけとは限らないし、その分の涙も同等だと思うのだ。
だから、本当の正義っていうものは簡単に見つかるものでもないのだ。





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