第19話 鏡へ 青空に投げ出されたカービィ達は、声にならない悲鳴を上げていました。 いや、それは叫んでも叫んでも風に掻き消され、意味を為さなかっただけでしたが。心臓が丸ごと浮き上がり、空気の渦に巻き込まれるような感覚がします。カービィの顔は、真っ青でした。 ぐんっ カービィの身体が、何かに引き寄せられます。それは、落下の感覚や重力とは別のものでした。 顔を上げると、自らの身体でカービィを包むように抱きしめる、強張ったルビィの顔がありました。思わず声を上げます。 「おっ、お兄ちゃ…っ!」 「喋るな!」 ルビィは、ぎゅっとカービィを抱きしめます。空は急に黄昏のように紅くなり、くらり、と、回転しました。 そこはもう空の中ではなく、どこか、まるで夢の国の神殿のような……清浄で、美しい空間が広がっていました。いくつもの鏡が立ち並び、美しい石柱が何本も立っていました。中には、土台ごと宙に浮いた鏡もあります。しかし、彼らにそれをゆっくり観察している暇はありませんでした。 床が、すぐそこに迫っています。 「!」 思わず目を瞑り、感じるであろう衝撃に耐えようとしました。 ふわっ 落下の直前でした。穏やかな風のクッションに受け止められたかのように、ルビィやデデデ達の身体が、一瞬だけ宙に浮かび、どさり、と、何の痛みもなく床に着地します。カービィは、ルビィの腕の中で、未だ呆然としていました。もちろん、当のルビィや、デデデ、グーイ、ワドルドゥも。暫く、静寂が支配していました。 「……どうなったんだ?」 ルビィの声が、神殿の中にこだまします。 「ここが……鏡の国、なのか?」 その問いに、返事は無い筈でした。しかし、すぐに帰ってきたのは、聞き覚えのある、笑みを含んだ少女の声でした。 「そう。ようこそ、ボク達魔獣の植民地へ。」 全員が、バッとそちらを振り返ります。 グリルは、クスクス笑いながら、箒の上に座り、彼らを見下ろしていました。表情は嘲りに歪んでいましたが、目は笑っていません。 「……僕達をここに呼び寄せて、どうするつもりなんですか!?」 真っ先に声を上げたのは、ドゥでした。短剣を抜き、それをグリルに向けて構えます。彼女はそのちっぽけな剣を一瞥して、つまらなさそうに鼻を鳴らしました。 「別に? ボクが招待したかったのは、本当はそこの星の戦士のお二人だけだったし。なのにこんなに一杯、ズルズルと芋づるみたいにくっついてきてさあ……邪魔。」 「なっ…!?」 ドゥは頭に血が昇っていたに違いありません。剣を握る手に力がこもります。グリルは、ニッと笑いながらその様子を見ていました。 「君、この中では一番弱いしねぇ……生きてこの国から出られるかなぁ? ……無理だろうね。きっと、君の剣の先生の二の舞に……」 デデデがそれを止める前に、ドゥは走り出していました。雄叫びを上げ、グリルに向かって剣が翻ります。 「メタナイト様に何をしたぁぁぁぁ!!?」 グリルの歪んだ笑みは、既に顔中に広がっていました。 彼女は、パチンと指を鳴らします。 「サスケ。いらない奴、みんな始末して。」 グリルの背後から、大きな影がフッと現れました。 ガチャリ 黒い銃口が、ドゥへと向けられます。 「…ッ!」 サスケは、ずっと無表情でした。 バァーン! 雷管が爆ぜる音が、鏡の神殿に響き渡ります。 「……あーあ。ついに入ってきちまったか。」 シャドーは、鏡の国の玄関口……セントラル・サークルの様子を眺めながら、ニヤニヤと笑いました。闇の中で、シャドーの幼い子供ほどの大きさの影が、ゆらゆらと揺れています。エリザは、彼のその姿に一瞬目を奪われましたが、すぐに、鏡の国での法則を思い出し、気にしない事にしました。それよりも、目の前で起きていることの方が、心配です。しかしシャドーは、全く気にも留めず、ニヤニヤと笑っていました。 「へへへへへぇ、なかなかかわいいじゃねぇかこのカービィちゃんって…………ルビィなんか見ろよ、このキレーな顔! 汚しちまうにゃ勿体ねぇくらいだが……それもまた楽しみだよなぁ!!」 下品な笑い声を上げながら、ぐびっと酒をあおります。最後の一滴まで飲み干すと、その瓶を床に放り投げました。それはゴロゴロと転がり、壁に磔にされていたメタナイトの足下に当たります。メタナイトは、昏い眼でゆっくりとシャドーの姿を見つめ、セントラル・サークルの様子を映す小さな鏡に目を留めます。そこに映る、メタナイトのよく見知った彼らの顔を見た瞬間、メタの瞳に一瞬だけ光が戻りました。エリザは、そんなメタの様子など気にも留めず、そわそわとシャドーに話しかけます。 「パパ……大丈夫なの? クラブのクィーンの奴、星の戦士以外皆殺しにするつもりだよ。」 シャドーは、酒で濡れた唇を拭いながら煙草に火を点けます。その煙を胸いっぱいに吸い込み、ふーっと吐き出しました。セントラル・サークルを見ながら、面倒くさそうに頭を掻きます。 「まぁ、本気じゃあねぇと思うがな……マジで殺されたりしちゃあ、確かにヤベェかな。 死体が転がってたりして、“奴”に火が点かねーとも限らねーし。しっかたねぇなー……ちょっと様子を見に行くか。エリザ、行くぞ。」 「え? パパ、あたし戦ってもいいの!?」 エリザの表情が、パッと明るくなりました。嬉しそうにシャドーの後に従います。 シャドーは、そんなエリザの様子に笑みを隠せないようで、先ほどの歪んだ下品な笑いとは違う、もっと優しいものをその顔に浮かべていました。 「ああ。存分に暴れていいぞ。 ただし、一応誰も殺すな。あと、奴らはなかなか結束が固い。丁度居るのもセントラル・サークルだ。撹乱させ、バラけさせよう。 あとな……強くて格好いい、オレの騎士様?」 急に振り向き、煙草でエリザを指さすシャドーに、彼女はきょとんとした表情をしました。 「お前、女の子口調に戻ってるけどいいのか?」 「よ、よくねーよ!!」 エリザは、真っ赤になって叫びました。 バァーン! ドゥは、反射的に下に伏せました。銃弾は神殿の床を抉り、磨き上げられたガラスのようなそこに、蜘蛛の糸のような傷を付けます。 「逃げろ!!」 銃撃と、そのデデデの言葉を合図にして、ルビィはカービィを抱えてまず最初に、グーイがその後に続いて走り出しました。デデデは、今だグリルを睨むドゥの腕を乱暴に掴み、彼らの後を追います。 バババババババババッ! サスケは、今度はマシンガンを取りだし、雨のように鉛弾を降らせます。ルビィ達は、すぐさま柱の後ろに隠れました。バババババババッ! 後ろから降り注ぐ銃弾も、その頑丈な柱が盾になり、何とか持ち堪えられそうです。サスケは、彼らが逃げ込んだ場所を確認すると、立っていた高台から飛び降り、ジャコッ、と、威力の大きいショットガンに持ち替えます。ルビィが虹の剣を抜き、デデデはハンマーを構えました。 緊張が走ります。 サスケが、カッカッと近づく足音と、息づかいだけが聞こえていました。 少なくとも、その時までは。 キィィィン! 「!」 カービィ達の柱の近く、その鏡の中から、急にまばゆい光が溢れました。 どさっ! 一瞬の閃光の後、そこには、その光から投げ出された……二人の人影がありました。一人は、黒い髪と褐色の肌の……ダークマター。もう一人は……丁度カービィと同じくらいの、小さな少年でした。少年は気を失いぐったりとし、ダークマターの方はどうやらケガをしているようで、頭から血が流れています。突然のことで呆然としていたカービィでしたが……思わず、こう訊いていました。 「あの…………あなた達は、誰?」 床に倒れ、うずくまっていたダークマターが顔を上げます。 そのダークマターには、「表情」がありました。 今まで戦った、心無き闇とは……全く違う、本当に、普通の青年のような……顔、でした。 「……え?えーと…………オレは…………や、むしろ……ここは…?」 「カービィ、伏せろ!!!」 デデデとルビィが同時に叫びます。 ゴンッ!! 柱の1/3が破壊され、白い破片がバラバラと飛び散りました。ダークマターの青年は思わず、自らが連れていたもう一人の子供と一緒に、カービィの身体を抱きしめていました。彼の身体にガンガンと破片が降り注ぎます。 「いてー!!」 しかし、まぬけを言っている暇はありませんでした。 サスケの放った閃光が、カービィ達の方へ走ります。 とても避け切れません。 青年とカービィは、思わず目を瞑りました。 カンッ!!! アルミの板を床に落としたような、軽い、小気味の良い音が響きます。 混乱した彼らにも、それが爆弾の着弾した音とは違うことだけは、すぐにわかりました。 眼を開けます。 そこには、黒いマントを羽織った、若い女の姿がありました。 彼女は剣で、弾丸を切り落としたのです。黒いマントの彼女は剣を構えたまま、黒光りしたそれはサスケと……その後ろで宙に浮いているグリルの方を、真っ直ぐに向いていました。 グリルは、チッと舌打ちします。 「ダークメタナイトか……。」 彼女は、グリルに言葉にニヤッと笑い、眉を上げただけでした。 「そうさ……オレが、プププランドの女剣士……メタナイトの“影”だ。 だが、もうオレをダークメタナイトなどとは呼ぶな……今のオレには、「エリザ」って名前があるんだ!!」 ガキィィン! エリザの刃が振り下ろされた瞬間、そこから灰色のカマイタチが生まれます。サスケは大ぶりの銃を構えましたが、発射する直前に、ヂンッ、と、銃口が切り落とされます。グリルも応戦しようとした瞬間、彼女の横を再びカマイタチが通り抜けました。グリルの服の袖が、パックリと開いていす。不服そうに舌打ちをしました。 「……サスケ、お前は退いてろ。 クソッ、奴め……出来損いの“影”に、理性はおろか名前まで与えていたのか……馬鹿な事を。」 「出来損いだと!?」 エリザはギリッと歯を噛みしめ、ギュンッ、と、刀を振り回しました。灰色の風がエリザの周りを取り囲み、風の糸が竜巻になります。巻き込まれた岩やさっきの破片が、あっという間に砂よりも小さく切り刻まれました。 「危ない…ッ! 皆さん、走って!!」 グーイの声が合図になり、一丸となって走り出します。先ほどのダークマターの青年と気絶した少年も、どさくさに紛れて一緒に逃げていました。ルビィは、彼を横目で見ながら、一瞬だけ、迷いました。が、すぐに、持っていた例の携帯通信機の一つを、彼の方へと放り投げます。青年は、その小さな機械を反射的に掴みましたが……何なのかわからず、暫くそのピンク色の機体を凝視していました。 「それは、携帯通信機というものだ! お前、さっき私の弟を助けたな?」 走りながら叫ぶルビィに、青年は頷きます。 「だから、一応はお前を信用しようと思う! この先離れ離れにもなるだろうが、それを通信機を使えば私達と連絡が取れる。何かがあった時は、それを使え!」 青年は、もう一度頷きました。ルビィはもう一度叫びます。 「私の名はルビィ! 弟はカービィ、一緒にいるのは……左から、グーイ、デデデ、ワドルドゥだ! 貴様の名は!?」 青年が口を開こうとした瞬間、竜巻がルビィとタトゥーの間を切り裂きました。彼は「のわっ!?」と叫び、後ろに倒れます。ルビィも、カービィを引き寄せ竜巻から逃れました。青年は床にはいつくばっていましたが、すぐに立ち上がり、叫びました。 「オレは、タトゥー! 一緒にいるガキの名前は……マルクだ!!」 ……マルク? ルビィは、その名に身体中の血がざわつくような違和感を感じました。それを探ろうと、再び口を開きかけます。 竜巻が、彼らの方へ戻ってきました。 「!!」 タトゥーは、マルクを抱き上げたまま思わず後ずさりしました。後ろには、鏡があります。 キィィィン! 鏡が光を放ち、後ずさりしたタトゥーの身体を、するり、と、その「中」へ受け入れました。 「お?!」 タトゥーは、そのまま鏡の中へ倒れ込み……姿を消しました。 再び扉が輝き、それは一瞬で消えます。 グーイが、それを見て閃きました。 「ルビィさん、鏡です! この世界では、鏡がそれぞれの場所と場所を繋ぐ「扉」のようになっているのでしょう、だからタトゥーさん達は突然やって来て……ああして消えてしまった! おそらく、タトゥーさんは鏡の向うへ移動している筈です。僕達も、後を追い……」 ギュウンッ!! グーイの身体を、分厚い風が切り裂きました。 赤い血がゆるやかな軌道を描き、グーイはそのまま後ろ向きに倒れ……丁度、彼の背後にあった、石柱に縁取りされた鏡の中へ、消えてゆきました。 一瞬でした。 「グーイ!?」 ルビィが駆け込もうとした瞬間、エリザの疾風が鏡に直撃し、その表面が砕け散ります。デデデが悔しそうに顔を歪めました。 「ルビィ、おそらくその鏡にはもう入れねぇ! 他の鏡の中へ向かおう……「鏡」がこの国を支える「扉」だとすれば、中にもたくさん設置されてる筈だ。行くぞ!!」 「それはどうだろう?」 紫色のレーザーが、機関銃のように放たれます。 グリルが、箒の上から彼らを狙っていました。 「クソ…ッ!」 デデデはドゥの手を引き、近くにあった鏡の中に入ります。ルビィとカービィも、その後を追いかけました。 「君は、こっちだよ。」 「え…!?」 グリルは、カービィの腕をガッと掴み、飛び上がりました。 「カービィ!?」 「お……お兄ちゃん…!!?」 カービィは、ルビィの方へ手を伸ばします。 ルビィも、カービィの腕を掴もうと、手を伸ばしました。 グリルの皮肉そうな嘲笑が、上空にあった鏡の中へと消え……カービィの姿も、その一瞬の後に、消えました。 「カービィ…?」 彼らの姿は、どこにも見えません。 目の前にあるのは、誰も映っていない鏡だけ。 「カービィィィィ!!!」 ルビィは叫びました。 その叫びは鏡と鏡に反響し、誰にも伝えてはくれません。 ルビィがその後を追おうとした瞬間、鏡が真っ二つに割れ、その中から現れたのは、剣を構えた黒い影の姿です。 エリザは、最後の一人となったルビィに、ニヤリと笑いかけました。 その顔は……表情の幼さと野蛮さは、まるで本人のそれとはかけ離れていましたが……目鼻立ち、それらは彼のよく見知った……メタナイトに、そっくりでした。 二人とも、同じく剣を構えます。 ガキンッ! 先に動いたのはエリザです。ルビィは、それを虹の剣で受け止め……すぐに、振り払いました。ルビィは、メタナイトと何度も刃を交えましたが……こんなに、軽い攻撃ではありませんでした。ルビィは、グリルの言っていた「出来損い」という言葉を思い出します。ルビィのそんな思考を読んだのか、エリザの攻撃が更に激しくなりました。ガガガガガガガッ、と、剣山が降り注ぐような攻撃を、ルビィは必死に守ります。 「……ッ!!」 あまりに速い猛攻に、ルビィの腕が痺れてきました。ルビィは剣を構えたたまま、ぎゅっと目を瞑ります。風の刃に切り裂かれ、血を残して消えていったグーイ。グリルに連れ去られ、既に迷宮の中へいるカービィ。バラバラになってしまったデデデとドゥ、そしてタトゥーとあの少年。行方の知れない、メタナイト……―――― 早く行かなくては。 このままでは、何もできない!! 剣に、光が灯ります。ルビィは眼を開けました。 「ハァッ!!」 ぐんっ! 虹の剣から放たれた光の球が、エリザの方へ真っ直ぐに走ります。 「わ…っ!?」 エリザは、避ける間もありませんでした。 ゴォンッ! 爆発した光に、そのまま吹き飛ばされます。 ルビィは、エリザが倒れるのを見届けもせず、すぐ近くにあった蒼い装飾の鏡の中へ逃げ込みました。 ……神殿は、再び静かになりました。 かつん、と、岩の粒が落ちる音が響きます。 エリザの苦しそうな息づかいの他、何も聞こえませんでした。 一つの小さな鏡から、ぽうっ、と、光が漏れます。 「あーらら。派手にやったなぁ。」 煙草の煙を揺らしながら、シャドーはヒュウと口笛を吹きました。 美しかった神殿は、破壊されてもなお美しく、奇妙なシュールさでその美を讃えています。 「おい、エリザ? 大丈夫か?」 「……んなわけ……ねーだろ……。」 小刻みに震えながら、エリザが顔を上げました。痛みと言うより、むしろ屈辱で震えているようです。 「畜生、あの星の戦士め……妙な技使いやがって!!」 「まぁまぁ。……星の戦士は、感情を力や能力の糧にする。お仲間さんがやられた怒りが、今の技を成功させたんだろうな……しかし、一撃でエリザをやっつけるとはねぇ。なかなかやるな、あの美人。」 その声に楽しそうな響きが混じっていることに気づき、エリザはぷいと横を向きました。拗ねてしまった自分の義理の娘に、シャドーは慌てて笑いかけます。 「そう怒るなよぉ、オレのかわい子ちゃん! 今はとりあえず、その傷を治しておいで。オレは……ちょいと用があるんだ。グリルが何のつもりかは知らねーが、ちょいと放っておけねぇからな。」 ちらりと、グリルとカービィが消えた鏡を見つめ、呟きます。 「……星の戦士、か……。」 言葉を放ったその唇が、見る見るうちに歪みます。 それは、嫉妬であり、憎悪であり、憤激でもありました。 世界中のあらゆる邪悪が、愉快そうに舌なめずりしている、そんな笑みです。笑み、と呼ぶには、あまりにも醜悪でしたが。 しかし、それも一瞬で消えました。 エリザの方を振り向き、今度は「ちゃんとした」笑顔で、笑いかけます。 「じゃ、行ってくるぜ。 しっかりお留守番しててくれよー、エリザちゃん♪」 一部始終を見ていたダークマインドは、身体中を震わせて笑っていました。特に、シャドーの「笑み」を見た瞬間といったら、ぐんにゃりと瞳を歪めて笑っていたのです。理性を持たぬ一つ目の神様は、ディメンションミラーの中で、歌うように呟きます。 「揃いました。揃ったのですね。みんな、揃ったのですね。ダークマインドは、嬉しいです。うふふふふ。うふふふふふふふふ。 さあ、遊びましょう。ダークマインドは、退屈していました。それは、それは。ダークマインドは、退屈していました。退屈だったのです。神様は、退屈でした。神様は、退屈で退屈で、死んでしまった方がどれほど美しいかと何度も思いました。ダークマインドは、退屈のあまり壊れそうだったのです。うふふふふふふ。来てくれた。来てくれた。みんな来てくれた。うふふふふふふふふふふふふふふふふ。 ダークマインドは一人きりでした。ダークマインドはただここに居ました。ダークマインドを一人きりにさせたのは誰? 魔王様。ダークマインドは魔王様を恨む? 恨みません。だけど魔王様、ダークマインドは本当に本当に、退屈だったのです。死んでいる方が美しいくらいね。 だから、ダークマインドは心ゆくまで遊ぼうと思います。みんな来てくれたから。ダークマインドのお庭に、みんないるから。さあ、遊びましょう。遊びましょう。 遊びましょう。遊びましょう。遊びましょう。遊びましょう。うふふふふふふふふふ。 さあ……遊びましょう?」 ダークマインドが手を叩いた瞬間、風景の色が変わりました。 何度も手を叩き、その度に風景の色が変わりました。 世界は、ダークマインドそのものでした。 「あはははははははははははははははは。」 退屈のあまり壊れそうだった神様は、乾いた笑い声を上げたまま、何度も手を叩きました。 彼女の周りを、曇りのない空色の鏡がくるくると、何度も何度も、回り続けていました。 |