第18話 虚飾の神(1 〜余談)



 ダークマインドは、見ていました。
 強制的に開かれた天の扉、そこから落下する少年達の姿と……もう一組、この国の「裏口」から入ってきた、1人の青年と、“その子”のことを。
 ……ダークマインドは、見ていました。世界の変調、規律が乱れる瞬間を。
 そして、にこっと笑ったのです。それは文字通り眼だけの、不気味で異様な微笑みでしたが、そこに全くの悪意は感じられませんでした。

「マインドのお腹の中に、来たのですね。来たのですね。嬉しいです。マインドは、嬉しいです。
いらっしゃい、子供達。あなた達をずっと、待ってました。私は、待っていたのです。誰のために? 私の魔王様のために。
うふふ。うふふふふふふ。いらっしゃい。お腹すいた。ようこそ私の国へ。気に入って下さい? マインドのために。」

 その声は、録音された音声が壊れたパソコンに分解され、更にそれを古いスピーカーで流したような、どこかキーの外れた、けれどどこで外したかわからない、埃まみれの声でした。ダークマインドは、笑っています。笑うたびに、その有機的な炎のような身体の表面が、フワフワと震えました。
 ダークマインドの周りを、その一挙一動を全て記録せんとするかのように、二枚の鏡がくるくると回っています。ダークマインドの声がそれに反響し、何もない荒野に虚しく降り注ぎます。

「マインドは鏡の国の神様。たった1人の神様。みんな、私を、愛しなさい。私はダークマインド。私はダークマインド。」



 神様は、全てを支配していました。
 そして、神様は孤独でした。
 神様は、神様が自分で創った世界を、それはそれは愛していました。
 けれど、自分はいつしかそれに飽きて、きっと“鏡”を割りたくなるんだろうなぁと、そういったことも、彼女は、

 気づいて、いました。









 彼女は魔獣、ダークマインド。与えられた称号は、「クラブのエース」。
 “世界”の管理者である「女神」の複製にして、同じく「“世界”の模造品」である「鏡の国」を支配する者。
 彼女を創ったのは、魔王ナイトメア。
 ダークマインドは、ナイトメアに忠実でした。
 ナイトメアは、ダークマインドに何も望んでいませんでした。
 ダークマインドは、それを知っていました。
 彼が絶対に自分のことを愛してくれる筈がないことを、そして、自分が絶対に、彼のことを愛することはできないだろうことを、知っていました。

 だから、ナイトメアが死に、主がいなくなった後も、ダークマインドは1人こうして、鏡の国を守り続けています。
 何を想うでもなく、何を願うでもなく。



 神様は、孤独でした。
 ただ、それだけ。