銀河の伝説編



 第11話 伝説の名(1 〜“NOVA”)



 記憶の渦に、光と闇の狭間に、生命と虚無の境界に、置き去られた伝説が、ここにある。
 全ての願いを成就し、全ての想いを具現化せし彗星の伝説。
 銀河の果てのその果てに、その星は眠っているという。
 誰も見たことがない。
 誰も行ったことがない。
 誰も会ったことなどない。
 誰も知っている筈などない。
 “ノヴァ”と呼ばれたその彗星を。
 その彗星の表情を。





 ……これは、何の記録にも残らなかった伝説。
 誰の記憶にも残らなかった物語。
 ……ただひとり、それを体験した戦士は、

 もうこの世界に、いない。















 宇宙で、カービィは笑っていました。
 もう笑うしかない、という感じで、いつの間にやら笑っていました。
 彼の前に、もうひとり、少年がいます。
 少年も、高らかに笑っていました。カービィとは全く種類の違う、彼のような空笑いではなく、高らかな高らかな、勝ち誇った笑い声でした。

「はははははははははー……。
………ちょっとちょっとちょっと、ちょっと待って。
つまり、話をまとめていーかな?
僕は、星の戦士のカービィ君。で、君は、星を救う術を唯一知ってた、とっても博識なマルク君だよね?」
 マルクはうんうんと頷きます。とっても博識な、という所で、3回ほども頷きました。
「本当に原因不明だったし、そんなこと生きてきてはじめてだったから、何で月と太陽がケンカをはじめたのか、僕にはわからなかった。
でも、被害だけはとにかく著しかった。僕は途方に暮れていた。
そしたら、君は言ったよね?
『月と太陽のケンカを止めたければ、大彗星ノヴァにお願いすればいいのサ』って。」
 少し昔のことを思い出すような眼をした後、マルクはまた頷きました。
「……そして、僕ははるばる銀河を渡る旅をして、やっとこさ大彗星ノヴァを召還したワケだよ。」
 カービィはそこで言葉を切りました。マルクはといえば、ニコニコ笑っています。
 ははははは、どうしてくれよう。
「……じゃあー、君は僕を裏切ってくれたんだね?」
「うん。そうだヨ?」
「YES?OK?マジ?」
「うんうん。」
「……はははははは。」
「楽しいネー♪」
 マルクの翼がキラキラ光り、彼の口元から、ゆらぁ、と、青白い光の粒子が覗きます。
 ケタケタと笑う彼は、無邪気そうに言いました。





「月と太陽がケンカしたのも、君がこうして宇宙にいるのも……
ぜぇ〜〜〜んぶ、ボクの完璧な計画どーりだったのサ!!」





 クァァアアァァァアッ!
 放たれたその光線は真っ直ぐにカービィを吹き飛ばし、猛烈な勢いで、別の小惑星に突き落とされます。
 突き落とされながら、落下しながら、星の光をすり抜けながら、カービィは大声で叫んでいました。

「騙したなあぁぁぁぁ!!!?」

 どーんっ
 その惑星の大地は固く、カービィは頭を打った所為で、頭を抱えて転げまわることになりました。眼に涙すら浮かんでいます。
 けれど、マルクは彼に、休ませる時間を与えませんでした。
 シュシュシュシュシュッ
 蜂の群れのように追ってきた矢の群れを、一本の剣が切り裂きます。
 それは虹の光を反射させる、美しい剣でした。カービィは剣を杖のように地面に突き立て、独り言を漏らします。
「なーるほど、気砲弾の後は矢の嵐ね……。
エネルギーを矢に変形させて撃つとは。敵ながら天晴れ。
……って、ふざけてるヒマねーってかお代官様よー!」
 カキィッカキッカキィンッッ
 カービィとマルクの攻防戦は、熾烈を極めます。
 その光景を、まるで見えてさえいないように、微笑んだままの、巨大な彗星の顔。
 絶対中立にて、どんな願いも叶えてくれる。
 伝説の存在。
 ノヴァ。
「マルクーーー!!
お前に、銀河の願いは渡さねぇぇ!!」
「おほほほほほほッ、おバカな戦士様だこと!!」















 これは、何の記録にも残ら無い、誰の記憶にも無い、伝説。
 失われしノヴァ伝説。