第2話 ダークマター襲撃 カービィは驚きでクラクラしていましたが、平和な景色のなかに、その、黒い弾丸のように凄まじいスピードで迫ってくる何かを発見した時、心臓がドッと高鳴るのと同時に、冷静を手に入れました。 「伏せて、グーイさん!」 「!」 ダァン! 黒い何かから発された、真っ黒い炎の球は、間一髪にカービィがグーイを引き倒したために、わずかに外れました。しかし、その爆風は凄まじく、カービィ達は数メートルも吹き飛ばされ、半球型のカービィの家は半壊しました。 「あーーー!!! やだやだやだぁ、デデデ大王にどうやって言い訳しよう……。」 「…カービィさん、今はそれどころじゃありませんよ……。」 グーイは、本気でへこんでるカービィに、なかば呆れのまなざしを送り、そして、自分達を攻撃してきた対象を強く睨みました。 「……ダークマター、もう追ってくるなんて。」 「……ダークマター?」 グーイは、カービィを見返しました。 カービィは、さっきまでの子供っぽい表情が一転して、まるで熟練の武人のような、戦う者の眼をしていました。グーイは、驚きを隠せませんでした。 「よくわかんないけど。」 キラッ。 カービィは、金色の星を取り出しました。眩いほどの光を放ちます。星飾りから伸びる赤と白のリボンが、風に吹かれたようにゆらゆらと揺れました。 「グーイさんの事情とか、あいつのこととか、その……お兄ちゃんのこととか、全然よくわかんなんけど。 でも、グーイさんはいいひとだと思うし、あいつがグーイさんをいじめてるんなら……ぼく、戦うよ。」 カッ。 輝く星飾りは宙に浮かび、カービィの周りを金色のヴェールが包みます。それはまるで、半透明のガラス玉のようでした。 ダークマターは二回目の攻撃を開始していて、カービィに向かって黒い炎が向かいました。 しかし、それはヴェールに触れた瞬間、吸い込まれるように消滅しました。そして、星飾りの赤と白のリボンが2mほども伸びて、カービィの周りをくるくると回転をはじめました。 一瞬にして、それはひとつのロッドに変化しました。……スターロッドと呼ばれる、伝説の存在の。 「コピー能力……いっくよぉお!」 カービィはスターロッドを頭上で一振りし、すると、赤い炎のような光がカービィを包み、それは巨大な火柱になりました。 「ファイヤー!」 グーイは、驚きと感動で、自分の目を疑いました。 カービィの頭上で揺れる、炎の冠。 燃え盛るエネルギーは金の輪の上で踊り、エメラルドのような宝石は、太陽の光を乱反射させました。 星の戦士カービィの力、それがこの、コピー能力。自然から、あらゆる力から、エネルギーを引き出し放射する。 グーイは小さく感嘆しました。 「……本当に、これは、星の戦士の力……。」 ……ルビィさんを、助け出せる、唯一の力。 ギュンッ。 方向を変えて、再び突進するダークマターを睨みます。 その掌に凄まじいほどの力が集中し、グーイは、カービィに集まる風が熱を帯びているのを感じました。 「やあぁぁぁあぁぁあ!!!」 ボウゥウン!! 炎の渦が、ダークマターをあっという間に包み込み、その業火に、ダークマターは姿形を失いました。 その炎は不思議と、周りの草花は全く燃やさず、ダークマターだけを消滅させたのです。 まさに、奇跡の炎。 「カービィさん!」 グーイが、カービィに駆け寄ります。カービィは、にこっと笑いました。 「グーイさん、だいじょぶだった? ケガとか、してない?」 「はい。助けて下さり、本当にありがとうございました。 それと……グーイさんっていうのは、恥ずかしいです。グーイと呼んで下さい。 ……カービィさん、改めて、よろしくお願いします。」 そして、グーイはカービィに握手を求めました。カービィは少し照れくさそうに笑って、ぎゅっとグーイの掌を握り返します。 「よろしくね!グーイっ!」 キィイィィンッ。 「………!」 カービィは、急に耳鳴りを感じました。驚いて、耳を押さえます。 「なに、なに!? ねぇ、グーイ……いったい、なんだろう…!?」 グーイは、絶望的な表情で、恐ろしいスピードで曇りゆく空を見つめました。 そして、震える声で呟きます。 「……これは、召還魔法の発動の音です……強力な魔力は、発動だけで身体や自然に影響を及ぼします。 そして……こんな魔法を遣えるのは……僕が知っているなかで、ただ一人だけ……。」 イィィインッ! 空に浮かんだ魔法陣は、血の色に似た紅でした。 そして、それは蒼いフラッシュを放ち、消えます。一つの人影を残して。 その紅い長髪の人物は、氷のような無表情で、虹色の輝く剣を、カービィ達に向けました。 「ダークマター、グーイ……そして、星の戦士カービィ……。 貴様等は、このルビィが、殺す。」 風が、唸るように、吹き荒れます。 閃光のような感覚に、カービィは立ち竦みました。 「……え…?」 お、にい……ちゃ……ん……? それに……グーイが、ダークマターって……? 「カービィさん!」 グーイの呼びかけで、カービィはやっと我に返りました。 「カービィさん……詳しいことは、後でお話しします。 ですから、今はとにかく……死なないよう、最善を尽くして下さい。」 そして小さく、「…ごめんなさい…」と呟きました。 カービィは、なにもかもごちゃごちゃで、全然よくわかりませんでした。 しかし、これだけは、確かでした。 自分に向けられる、鋭すぎる、怖いほどの、殺気。 そして、そのルビィの、悲しい瞳の色。 ……このひとのこと、ぼくは確かに、知っている…。 カービィがそう確信する前に、ルビィの刃が迫っていました。 |