Y 終わり無き鎮魂歌



「ぅ……ぅあ…ぁ…は…っ……は…ぁ……!!」
 メタナイトは、マントを掴みながら、喘ぎ続けた。汗が危険なぐらい滴り、顔は蒼白にゆがんでいる。それでもまだ目を覚まさない。ナイトメアの呪縛が、彼を侵し続ける。
「メタナイト!しっかりして!!」
 フームの、涙混じりの必死な叫びも、メタナイトには届かない。彼女は、シーツの上に泣き崩れてしまった。その大きく震える肩に、ブレイドナイトが優しく手を置く。ブンも、沈痛な面持ちで、その光景を見つめていた。
 皆、悲しんでいた。……もしこのまま卿が目覚めなければ……。そんな不安が、暗雲のように、彼らの上にのしかかっていた。
 この剣幕には、さすがのデデデとエスカルゴンも、押し黙ってしまった。彼らが頼りの綱にしていたナイトメア社も、繋がらないのでは意味がない。幸い、メタナイトの体調が原因不明と分かった時点で医者のヤブイにも帰ってもらい、デデデ城には誰もはいってこれないようにしたため、ププビレッジの野次馬を呼ぶことはなかった。野次馬が群がると、非常に厄介である。
 ……それにしても、ワドルドゥはどこに行ったのだ?
 彼がいてくれたなら、ワドルディ達をちゃんと指揮して、城の警備に回せたはずだ。だが、ワドルドゥがいないせいで、ワドルディ達はのそのそとしか命令に従わない。おかげで、城の警備は不慣れなパームとメームが中心でやることになってしまった。
 デデデは、緊迫した空気への苛立ちを、不在であるワドルドゥにむけ、地団駄を踏んでいた。顔には血が上り、赤くなっている。
 その時、どこからか爆発音が響いた。驚いて扉の方を振り向き、ソードとブレイドは、剣を抜いた。
 しかし、爆発は思いも寄らぬ方向から来た。――それは、カービィを狙っていた――
「ぽょ……!!」

 ドーンッッ

 爆弾は、カービィの軌道に向かって飛んできた。が、寸前ででソードナイトが爆弾を切り刻み、爆発は最小限に抑えられた。
「何だぞい!?」「何でゲスカ!?」
 ……デデデとエスカルゴンが同時に叫ぶ。相変わらず相性がいい。……いや、今はこんなこと関係ない。
 ……爆風の中から、人影が浮き出る。それは、もう死んだはずの影だった。
 サスケは、身長ほどあるマシンガンを装備し、整然と立ちはだかっていた。ソードとブレイドがその姿を見極めるのに、多少の時間がかかった。
 サスケは、チッと舌打ちし、カービィの影を探す。幼い彼は、いとも簡単に見つかってしまった。

 ガガガガガッ

 カービィに、マシンガンの雨が襲いかかる。カービィは慌てて避けるが、攻撃は止まらない。
 サスケは乗っていた瓦礫から飛び降り、カービィを追う。……カービィは、足の速さだったら自信があったが、サスケの走力は半端じゃない。
 滑り込みで瓦礫と瓦礫の間に隠れ、その隙に、錯乱した岩の力を借り、ストーンの能力を身につけた。
 隙をつかれたサスケは、即座に巨大な岩を出現させたカービィの攻撃を避けきれず、潰される――。
 ……?手応えがない。不意に頭上を見上げる。――サスケは、小型爆弾を足元に撃ち、爆風でカービィの攻撃を避けたのだ。ニヤリと不気味に笑い、ダイナマイトをカービィに落とす――

 ドーンッッ

 カービィは、爆風に吹き飛ばされ、気を失った。能力はとうに解けている。
 サスケの一瞬の笑みが、幻のように感じた。

 フームはゴホゴホと咳こもり、ハッと気がつく。
「メタナイト卿!?」
 フームは周りを見渡す。髪が乱れていたが、それにかまっている暇はない。

 ……いた!!

 メタナイトは、壁に叩き付けられたのか、壁の下の辺りでうずくまっている。
「めたな……!!」
「行っちゃ駄目です!!」
 バシィ! フームのスカートの裾を、誰かに引っ張られ、盛大に転んでしまう。
 驚いて足元を見る。――そこにいたのは、不在だったはずのワドルドゥだった。
「フーム様、駄目です!メタナイト殿の側に行ってはなりません!!」
「な…な…な…?」
 フームは状況が分からず、ただ混乱してしまった。
「何で貴方がここに……いままでどこへ行っていたの!どうしてメタナイト卿の側に行ってはいけないの!?」
「僕の事情はあとで説明します!!
お願いです!!今、メタナイト殿の側に行かれれば、フーム様も――!!」

 ドクン

 その場にいた全ての者の動きが止まった。――空気が違う。

 ドクン

「ぅぁ…ぁ…ぁあ………あぁあ…!!」
 メタナイトのうめき声だけが、その空気の中に響いていた。
 ……この空気……魔獣!?
 メタナイトの身体が痙攣を起こし、背中が震えている。
「あ…ぁあ……ぁあぁあ…!!!」

 ドクンっ

 ユラリ、と、メタナイトが立ち上がる。顔だけが上を向き、身体には少しの力も入っていないようだった。
 サスケがマシンガンを外し、ゆっくりと、メタナイトに近づく。……他の者は、痛みで動けないか、その邪気に動けなかった。
 サスケはうっとりしたような表情をしていた。そして、声を出す。――その声は以外にも高く、鈴のようだった。
「……待っておりました……シルバーアイ様……
俺達、魔獣が探し続けてきた……邪竜王様………」

 メタナイトはゆっくりと、顔を下げる。……その瞳は、銀色に輝いていた。
「………………」
 何も言わず、ギャラクシアをかざす。金の剣先から現われたのは、禍々しいまでの赤い剱だった。



「―――終わらないレクイエムを詠いましょう。」