Z 魔獣の心 ▲ それは、メタナイトの皮を被った「何か」だった。 邪気が溢れ、空気を支配し、恐怖心を煽るのには十分なほど。 それは薄く笑っていた。 一番最初に沈黙を破ったのは、ソードとブレイドだった。 「卿を……メタナイト卿を、返せぇえぇぇ!!!」 思えば、この状況で、その「何か」を理解できたのは、彼らとサスケだけだったかもしれない。 フームも、ブンも、カービィでさえ、全く状況を理解できなかった。 理解、したくもなかった。 ガキィンッ! 鉄の弾ける音がする。と、同時に、ソードとブレイドは壁まで弾き飛ばされた。 一瞬の出来事だった。 「そう……熱くならないで下さい。 メタナイトは、もういないのですよ? どうして怒り狂うんですか?」 「メタナイトが……メタナイトがもういないって、どういうことよ!」 叫んだのはフームだった。しかし、彼女が一番驚いていただろう。 彼女は泣きながら叫んでいた。 「メタナイトを、どこへやったの!?」 「ここですよ。」 シルバーアイは、自身の胸を指した。 「彼は強く美しい戦士ですね。この私の支配を拒み続けてきた。何百年間も。 けれど、どんなに美しくても、所詮、ちっぽけな生物のひとりに過ぎませんから。 後で暴れられても困るので、喰べてしまいましたよ。」 そして、シルバーアイは優雅に笑った。 「次は貴殿等を。メタナイトが生きていた証拠、その全てを壊してさしあげます。」 「ふざけないで!!」 しかし、フームの叫びもそれまでだった。 シルバーアイは微笑み、その背から飛び出す銀色の翼。 「ああ。」 恍惚そうに、眼を瞑った。 「貴殿等から溢れる怒り憎しみその情熱! 美しい……負の感情の斯くも甘美なものよ。」 ゴォッ! その炎はシルバーアイを包んだ。 青い炎。 そして生まれ出たそれは、邪竜に他ならない。 ダークブルーの鱗、白銀の肌、銀の眼。 魔獣、シルバーアイ。 絶望だった。 それは、他ならぬ絶望だった。 「メタナイト…ッ!」 「フーム様、お逃げを!!」 オォ! 放たれた炎は、フームと、彼女をかばったワドルドゥを掠めた。 「くっ…!」 火傷した箇所が、酷く痛む。ただの炎ではないらしい。 ならば余計、フーム様やブン様、ついでに陛下や閣下をここに居させるわけにはいかない。 「陛下、閣下も!はやく逃げ……」 しかし、ふたりはとっくに逃げていた。要領のいい人々だ。しかし、この際ありがたい。 後はフーム様等を。 「フームさ…」 「カービィ避けて!!」 フームはカービィの手をとり、今までの戦いから得たのか、なかなかの素早さで、炎の攻撃を避けた。 「ねーちゃん、カービィにこれ!」 ブンが叫ぶ。それは、サスケが持っていたのだろうか、爆弾のひとつだろう。 「ボムよ、カービィ!」 「ぽよ!」 その能力を借りて、瞬間カービィは輝き、すると水色の帽子を被った少年が現れた。 ボムカービィ。 いつもなら、メタナイトがその能力の特徴やその他を教え手助けする。しかし今戦っているのは、その彼自身……いや、彼に潜んでいた闇そのものなのだ。 「邪魔をするな…!」 パァーンッ! 「ぽよ!?」 それはシルバーアイではなく、サスケだった。 サスケの爆撃がカービィを襲う。そして、シルバーアイの攻撃が、一瞬の隙をついてフームに降りかかった。 「フーム様!」 「ねーちゃん!?」 しかし、その炎の弾は、カービィの爆弾に相殺された。しかし、衝撃波はかなりある。 フームは髪も服も乱していたが、しかしその眼は強かった。 「よかった、ご無事……」 ドクン。 ワドルドゥは、倒れそうになった。 しかし、自分の意思でない力で身体が引っ張られ、自由が利かない。 ガッ。 「な…何するのワドルドゥ、離して!」 自由が、利かない。今自分が、一体どんな表情をしているのか、それすらわからない。 逃げてください、フーム様。 そう言おうとしても、声にならない。 ……そうだ、どう足掻いた所で、この肉体はナイトメアのもの。 僕は魔獣。 あまりにも絶望的な真実に、足が竦む。 シルバーアイはフームの顔を覗き込み、フームは力強くシルバーアイを睨んだ。 クスクスと笑うシルバーアイ。 「貴女とは、一度会ったことがありますね?」 フームは怒って言った。 「何のこと?私は、あんたのことなんか少しも知らないわ。 それよりも、メタナイトよ!メタナイトを出して!!」 「…………。」 シルバーアイは、なおもフームの瞳を見ている。 すると、彼は高らかに笑った。 「ああ、お前は、私を封じた者か! ふふふ……あの頃も、メタナイトは美しかった。」 フームには何のことだか、さっぱりわからない。 「メタナイトは、お前を愛してましたね。 お前も。 そうか……あれから、相当の時間が経っている筈ですからね……星の戦士の生き残りが覚醒するくらい。」 そして、口をかぱりと開けた。 銀の煙が漏れる。 白い牙。 みおぼえがある。 「アディア……メタナイトは、貴女をアディアと呼んでいましたね?」 かちり。 様々な歯車が噛み合わさる。 フームは、思い出した。 メタナイトの、腕の中で、アディアが。 その身体が、死んだこと。 「アディ……」 声にならない。 思い出してしまったから。 「アディア、もう一度殺して差し上げます。 メタナイトの邪魔が入らないように、美しく、確実に、殺して差し上げますよ。 この美しい私が。」 殺された、あの熱を思い出して、身体が動かない。 邪竜の毒牙が眼前に迫る。 |