U 夢想の記憶 ▲



 がさっ

 ビク!
 ワドルドゥの近くにあった茂みが揺らぐ。
 なんだろう?
 ドゥは、ビクビクしながら茂みを見渡した。この自らの臆病さ、そのことだけでも自己嫌悪に陥ってしまう。
 ざわざわざわ 森全体が囁くように、葉と葉が揺らめきあう。気分が悪い。

 がさっ!

「うわぁああああ!!!」
 背後の茂みが大きく揺らぎ、酷く大げさに、驚いてしまう。

 ――それは、とても長く感じた一秒だった。
 一秒も経っていないかも知れない。だがドゥにとって、とても長い瞬間だった。

 ……なんだ、この感じ……?

 目の前にいる――魔獣サスケは、驚いた様子もうろたえた様子もなく、ただドゥを見つめ返していた。

 ――閃光のような情景が、ワドルドゥの頭によぎる。





 剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。
 戦火は激しい業火となり、人々を呑み込んでいく。

 僕は、あのお方に生み出された。
 だから、僕はあのお方のためだけに戦い、そのために死ぬのであろう。

 あのお方は、今、西にお見える。
 黄昏の光を遮って、全ての命を踏み潰す。
 群青の竜の姿。白銀(しろがね)の瞳。



 シルバーアイ様―――




 ……頭が……痛い………

 ワドルドゥは目眩を覚えた。よろけた拍子に、片手で頭を押さえ、剣を杖のようにして踏みとどまった。手に感覚が戻ってくると、大量の汗をかいていることが分かる。
 そんな彼を、サスケは黙って見つめていた。彼の瞳に感情の動きは見られない。
 その瞳を見ていて、何故か胸が苦しくなってきた。……何故?
 ……日は暮れつつあった。



「……………。」
 ……なんでこんな事に!?
 ワドルドゥは、適当な 巨木の前にランプを置き、小さな寝息をたてているサスケを眺めた。ちなみに、何故火を付けないかというと、彼は「経験者」だからである。森の主の怒りは怖いのだ。
 ドゥらしからず、彼は今、「迷えば最後、抜けられないウィスピーウッズの森」で、道に迷ってしまっていた。
 それはサスケの登場により、(何故か)動揺しきってしまったからと、日が暮れつつあったのに、注意を怠ったことだった。それでしかたなく、サスケと共に野営するハメになってしまったのだ。
「……はぁ。」
 ドゥは盛大なため息をしてみせる。そこら辺にはリンゴの食べかすが5つ分くらい転がり、ランプの光は微かに揺れていた。
 なぜ、サスケはこの森に?
 ……大体、あの時の爆発からどうやって逃げ出したのだろうか?あれからもう1年ほど経っていて、全然音沙汰無しだったのに、なんで今更?
「………はぁ…。」
 考えても仕方がない。ドゥは黙って眼を閉じた。寝息は二つになる。