[ 魔獣の心 ▼



 もう、白い牙が、目の前にあった。
「ふーむっ!」
 ボウンッ!!
 カービィの爆撃が、シルバーアイの顎を直撃した。
 カービィは再びフームを助けようと構えたが、しかしそれはサスケに妨げられた。
「ぽよっ…!」
「カービィ!?」
 フームはカービィに駆け寄ろうとした。しかしワドルドゥに捕まっている所為で、身動きが取れない。
「目ぇ覚ませって……ワド隊長ぉ!」
 バシンッ!
 ブンが投げた石はワドルドゥの頭に直撃し、よろめいた瞬間、
「隊長ごめん!」
 ズガドッ。
 フームの鉄拳が直撃する。ワドルドゥは沈んだ。
 そのままカービィを抱きかかえ、ブンと合流する。
「ねーちゃん、カービィ!こっち!!
あんなのに絶対敵わねーよ!とりあえず応援を…」
 しかし、逃げることは叶わなかった。
 サスケのピストルが迫る。
「カービィ、ボムを!」
「ぽよ!」
 ぽこんっと出した巨大な爆弾は、しかしサスケには当たらなかった。
 しかし、それは柱を吹き飛ばし、天井に穴を空けるほどの威力だった。爆風で、サスケはひるむ。
「くっ…!」
 そして、体勢を立て直そうと、マシンガンを握った瞬間、
「カービィ!」
「ぽよぉ!」
 カービィが再び、爆弾を投げる。
 ドォォオォン!
 爆風。飛散る岩片。
 サスケを気絶させることは、容易な程の威力だった。
「よっしゃー、サスケ撃破……って、うわ!?」
 そう、まだ本御所が残っている。
 シルバーアイはカービィを愉快そうに睨んでいる。
 強大な敵。
 魔獣の王。
 メタナイトの、仇。





 ワドルドゥは、夢の中にいた。
 いや、何か他の、別の記憶を漂っているかのような気分だった。

 ここは……?
 メタナイト殿は……フーム様、ブン様、カービィ殿は……?

 しかし、閃光が煌めき、ワドルドゥの思考は途絶えた。
 そこにはメタナイトがいた。
 青黒い鱗のような殻に包まれて、息をしていないように、生きていないように。

 メタナイト殿!

 触れることは叶わない。
 もどかしい思いだった。すぐそこに、メタナイトはいるのに。
 僕は魔獣だ。
 さっき気付いた真実。
 でも、メタナイト殿は僕に良くして下さった。
 僕に剣を教えて下さった。
 僕はメタナイト殿に、ずっと憧れていたんだ。
 彼を救いたい。
 僕が魔獣でも、彼が魔獣でも、そんなことどうでもいい。

 彼を、救いたい!!





 目覚めたとき、身体中が痛かった。おそらく、様々な所から縦横無尽に飛んできた石を受けまくっていたからと、フームに思いっきり殴られたからだろう。
 しかし、今はそんなことどうでもいいのだ。
 ワドルドゥは、フーム達を見つけると、シルバーアイも同時に見つけた。あれだけの巨体は、この広い部屋の中でも異質だった。
「くそ、皆様どうか無事で…!」
 剣を握る。
「うあぁぁあぁ!!」
 ワドルドゥは、フーム達に向かって放たれた炎の中に突っ込んだ。
 フーム達は驚愕の表情をしている。
 大丈夫です。僕は魔獣、こんな炎じゃ死なない。
 細胞が焼けただれる程の痛みだったが、それでもその青黒い身体に剣を向けた。
「やあっ!!」
 ガキィンッ!
 この剣技は、メタナイト殿、貴方に教えて頂いた。
 貴方はそれも、お忘れか?
 貴方はもう何かも忘れてしまったのか?
 そんなことは信じたくないです。
「邪魔な…!」
 シルバーアイの鱗が削れ、そこからカランと、一本の剱が、落ちた。
 聖なる剱、ギャラクシア。
 メタナイトが生きた証。

「カービィ、ギャラクシアを!!」

 それは、ワドルドゥとフーム、二人同時の叫びだった。
 カービィがその金の剣を握った瞬間、光が溢れた。聖なる光だった。



「ギャラクシア、ソードビーーム!!」



 カッ
 その光の刃は、シルバーアイの胸を引き裂いた。
 まるで破けた紙の袋のようなその箇所から、光が漏れている。
「くぅ、星の戦士の子が…!
その光、掻き消してやりますよ!!」
 ヴォウッ!
 銀の炎がギャラクシアに直撃する。
「ぽよ…!」
 その銀の邪気と衝撃で、カービィはギャラクシアを取り落とした。
 落下する剣。
 しかし、それは彼が受け止めた。
 ギャラクシアの確かな所持者である、彼が。





「シルバーアイ、貴様を倒すのは私だ!!」





 メタナイトが、その金の剣を振るう。
 バチィッ!
 刹那、だった。
 光が弾け、シルバーアイの身体が崩れる。

「ふふ…ふふふ……
やはり……私は……貴方に倒される運命なのですね……
……ふふふふ……やはり……貴方は……強く…………美しい…………」

 キィイィィィンッ!!





 光の柱が、天井を全て吹き飛ばした。
 青空が覗く。
 銀の霧がふわりと広がり、そして、消えた。
 そこに、シルバーアイ姿は、無かった。















 ……それから、一週間後。
 城の復旧作業は、本当にあっという間だった。ワドルドゥの的確な指示と、ワドルディ達の迅速な動きのおかげだ。
 この件もあり、この城に魔獣配信サービスが復活することは、なかった。デデデは少し不満みたいだか、閣下ならび大臣、そして村人まで、みんなほっとした。もう魔獣被害に悩まされる必要もない。
「なーんか……あっという間だったよな、カービィ。」
 芝生の上に寝っ転がりながら、ブンは言う。
「ぽよ?」
 カービィは呑気に答える。
 今日は学校は休み。久々にのんびりしてみる。
 ……あれから、城下町には学校が復活した。
 はじめは城の復旧作業中のワドルディ達の住居だったのだが、それなりの広さと設備がそろっていたので、フームの提案で、城復旧後そこは学校として利用されることになった。
 当然、大王も通うことになっている。彼は問題が多数あることにはかわりないが、けれども、根気よく教育し、勉強に慣れれば、それなりに成長できるはずだ。学校は、この村に必要だった。
「あれからさー……面白いよなァ。メタナイトとねーちゃん。」
「ぽよ?」
 そう。フームは自分がアディアの生まれ変わりで、そして最後にメタナイトにキスされたことまで、全て思い出してしまったのだ。
 それからの彼等は、見ていてなかなか面白い。
 メタナイトはアディアとフームの関連性について気付いていないようだったが、おそらく時間の問題だろう。





 それからの彼等と言えば、ワドルドゥとサスケ。
 シルバーアイが消滅したことにより、魔獣という支配は全て消え去った。
 しかし、サスケは魔獣としての記憶や経験しかなく、主人を失い、錯乱状態だった。

 目を覚ましたサスケは、ワドルドゥを見た瞬間、彼を攻撃しようとしたが、まだダメージが残った身体で、そんなことはできない。
 それに、彼自身、魔獣としての能力を失ってしまった所為で、なぜ彼を攻撃しなければいけないのか、わからなかった。ただ、錯乱した。
 その時だった。ワドルドゥはサスケを引っぱたいたのだ。パーン、と、素晴らしく響く音で。
 サスケの動きが、止った。

「サスケ……確かに僕らは、魔獣だ。魔獣だったよ。
でも、それが何だ。
僕らには……まだ、時間も残ってる。
記憶だって思い出だって、何度でも作り直せる。
僕らにだって……魔獣だった僕らにだって、心があったじゃないか。
それがあるんだから……何も失うことなんてないんだ。
僕らにだって一番大事なものが、生き残ってるんだ。」

 そして、その後はひたすら、大臣やフームに頭を下げた。
 どうかサスケも、この城で雇って下さい。
 どうかサスケを、この城で住まわせてやって下さい。
 もしくは倉庫やそういう不要な空間でも、どうか雨風のしのげるところを。
 ……城の関係者達は、その希望を受け入れない訳にはいかなかった。
 かくして、サスケはデデデ城に住む、少し変だけど腕は確かな、花火職人になった。





 フームは、学校に置く本を整理するため、図書室に寄った帰りだった。学校に移す何十冊もの本は、すでにワドルディ達に運ばせある。
 その時、メタナイトが歩いてきた。
 瞬間、顔が紅くなってしまう。しかし、何とか冷静を取り繕った。
「お……おはよう、メタナイト。」
 メタナイトはいつものクールな表情だったが、薄く微笑んだのを知っている。
「おはよう、フーム。」
 それだけで、胸が高鳴る。
 驚くべき感情だ。
 メタナイトは、あれから右腕が動かなくなった。
 シルバーアイに身体を乗っ取られていた、その後遺症らしい。しかし、最近、少しずつ、指が動くようになった。少しずつ。
 あの件で一番傷を負ったのは、メタナイトだった。
 様々なものを傷つけた罪を、一身に引き受けてしまっていた。
 笑うことが少なくなった。
 しかし、フームははっきり言った。

 貴方は責任感の強い性格だから、そうやって何もかも背負おうとする。
 けれど、これだけは譲れないわ。
 これらはメタナイトの、「罪」じゃない。
 どうしても「罪」に感じてしまうのなら、私にそれを分けて。
 メタナイトが一番傷付いているのに、もうこれ以上痛みを背負う必要なんか無いの。
 お願い。
 もっと私達を信じて欲しい。
 と。

 それは、確かな言葉だった。
 アディアの記憶が残っているから、確かに言える。
 貴方に罪なんか無い。
 だから、少しずつ傷を癒して欲しい。
 少しずつ。少しずつ。
 それでいいと思う。
 少しずつ、取り戻せばいい。
 心も、自由も。
 少しずつ。少しずつ。

 メタナイトは、ふと足を止め、鎧の間から、ひとつの綺麗なブローチを取り出した。
 ブローチは透き通ったアクアマリンで、銀の留金が光っている。
「フーム……これは、お前のものだ。」
「え…?」
 胸が高鳴る。顔が真っ赤になった。
「昔……ブループラネットで、購入した。
お前に……渡すために。
……受け取ってくれないか?」
 光がその石に反射して、掌の上で、ゆらゆらと輝いた。
 まるで、海の波のように。
「あ……」
 嬉しすぎて、声が掠れる。
「ありがとう…っ」
 メタナイトは、恥ずかしそうに、けれど素直に、笑った。

 少しずつ。少しずつ。
 心も、自由も、愛も。
 そして、笑顔も。



 END