Latter part ...SILENCE



 デデデ大王は、数枚の高級な紙に、万年筆でしるしを付ける。
「……お前の家の手配はできたぞ。前よりキレーに直してやるよ。」
 そう言って笑ってみるけれど、カービィの表情は暗い。
 大王はカービィの肩に手をやり、固い笑みをあげた。
「メタナイトなら、大丈夫だ。
グーイは、お前さんが助けてやればいいだろう?
心配するこたぁねえ。今まで通りで。
気を楽にしとけ。な?」
 にっと笑う。
 大王の心遣いを感じて、カービィは、苦しい笑みを返した。
「しかし、メックアイか……面倒だな。
よし、ワープスターを解禁する。それでいいな?」

 ワープスターは、星の戦士のみ操縦を許された、特別な宇宙船。
 光速で進むことのできる、宇宙で一番速い船である。
 昔、カービィが使用していたが、最近はもっぱら平和なので、デデデ城に封印されていた。

 ワープスターがあるのは、暗くて乾いた地下室。
 冷えた煉瓦。きらめく、金色のボディ。
「懐かしーなぁ。うまく操縦できるかな?」
「カンでがんばれ。カンで。」
 しっかり整備してくれていた様で、中も外もキレイだ。
「んー…。
あ。あった。」
 空色の座席の下。カチリと良い音がして、ひとつのロッドを取り出した。
 宇宙の秘宝。スターロッド。
 これは、夢の泉にあったものとは別で、星の戦士の戦闘用として作られている。
 マルクと戦うため……その為に、カービィは、再び武器を握った。
「気をつけろよ。間違っても、負けんじゃねーぞっ!
俺も加勢したいところだが……やらなきゃならねーコトがあるんでな。」
「まさか……マルクが?」
「……酷ぇもんだ。あちこちで被害があった。」
「…………。」
 うつむくカービィ。
「ダイジだって!おめーさんの所為じゃねーよっ!」
 大王は、カービィの目線に合わせ、強く言った。
「ポップスターの、メタナイトの……仇を取ってくれ。」
「……うんっ!」
 再び、にっと笑う。
「その意気だ。」

 キィィィンッッ。

 大空へ旅立つワープスター。
「頼んだぞ……カービィ。」





 ぷらぷら。
「……遅いなー、カービィ。」
 ぷらぷらぷら。
 頬づえを付きながら、両の足を持て余す。
 鉄パイプの森。古びたコードや鉄片が散らばって、古くなり腐ったオイルの異臭がする。
 グーイは、その一角に、乱暴に転がされていた。
「……う…。」
 頭が……痛い。
「あ、やっとお目覚かい?」
 ふわり。
 軽くジャンプして、グーイの目の前に降りた。
 グーイの表情が警戒に厳しくなる。
「君は…っ!
僕を、一体どうしようと…っ!」
 ドスッ。
 グーイの胸に、軽くも強い蹴りが入る。げほげほと、咳き込んだ。
 マルクは、グーイの髪を掴んで、楽しそうに、耳元で呟いた。
「君は大切なヒトバシラなんだから、あんまり暴れないで♪
ボク、怒っちゃうよ?」
 ゾク。
 どこか狂気的な声色に、ゾッとして、そのまま崩れ落ちた。
「…………。」
 唇を強く噛んだ。自分を見失わないように。
 マルクは、また、トンと飛んで、その高い位置で、ぷらぷらと足を揺らしはじめた。
「……遅いなー、カービィ。」

 ッドーーンッッッ。

「!」
 星が震動する。天井から、ホコリや汚れが落ちた。
 マルクの表情が、心底からの享楽に変わる。
「来たネ……カービィ…!!」
 キィィィンッッ。
 金色の光が、闇と鉄のジャングルを走り抜けながらやってくる。
「グーイッ!!」
「カービィ!!」
 パシィ。
 ふたつの幼い腕が、互いを掴み合い、グーイはワープスターに滑り込んだ。
 キィンッ。
 カービィは、その光速の中で、確かに、マルクを睨む。怒りの表情で。
 キィィィンッッ。
 走り去る金色。マルクは、悪魔的で狂気に満ちた高笑いを発していた。
「イイよ……最高だよォ、カービィ!」
 バサア。
 邪悪な翼が、闇に飛び出した。





 ―――カカッ。
 さっきまで、グーイが居た廃工場から、強い光が溢れる。
 シュウィィンッッ。
 そこから飛び出す、影。
 ……マルク。
「ヒャハハハハハハハハッ!!!」
 背後から、たくさんの刃が降り注ぐ。
 ワープスターは軽々とそれらをかわし、沈殿する煙の渦を巻き上げながら、スピードは上昇する。
 キィィィンッッ。
 空気抵抗を無視した、驚異的なスピード。
 キンッ。
 マルクの唇がつり上がる。
 両手に込める力。渦巻く光。
「カービィ、マルクが、何か……
………来ます!」
「うんっ…!」

 ギュァアァァァッッッ!

 光線。直撃。
 大地震のような衝撃が、カービィ達を襲う。
「うわぁあぁぁあぁ!!!」
 ガクン。
 機体が、下降する。
「あーっはっはっはっはっはぁっ!」
 狂気に満ちた嘲笑。
 ワープスターは、ゆらりゆらりと、大地に落下する。





「く……
グーイ、大丈夫?」
 ワープスターは、頑丈だ。大破することは無いが、パワーがダウンしてしまった。しばらく飛べない。
「は、はい。大丈夫です。
それより、カービィさん、血が……。」
 二の腕から出血し、桃色のリストバンドが赤く汚れている。
「へ? あ、だいじょーぶだよぉ、これくらい!」
「…………。」
 グーイは、黙ってその傷を悲しげな表情で観察し、小さなウォールポケットから、消毒薬とガーゼ、それに清潔な包帯を取り出す。
「イっつぅ……!」
「動かないで下さい。すぐに済みますから。」
 器用な手つきの応急処置。優しい声。
 ……こんなに善良で優しいのに、ぼくの友達だったばっかりに攫われて、酷いめにあった、グーイ。
 ぽつり。
「……カービィさん…?」
 地面にぽつぽつと、透明なシミ。
「ご、ごめん……。
ごめんね、グーイ…っ!」
 限りなく優しい、星の戦士。
「カービィさん……。
大丈夫です。僕達は…誰にも、負けません。」
 泣き崩れるカービィを、優しく抱きしめる。
 伝わる鼓動。体温。





 バサア。
 飛行する悪魔。マルク。
「カービィ……どこに行った?」
 物が動く気配がすれば、瞬時に反応し攻撃をする。
 しかし、カービィは未だ見つけられていない。
「…どこだ…?」

「ぼくはここだ!マルク!!」
「!」

 カッ。
 星のように輝く弾が、マルクにぶつかる。
 瞬きもせずに、その奥の存在を見極め、笑みをこぼした。
「カービィ…っ!!」
 ギュンッ。
 銃弾のように素早く、確実に、カービィの元へ飛び込んだ。
 予想以上のスピードに、カービィは慌てて避けた。
「逃げるなよォ…!!」
 引き攣った笑み。
 シュィンッ、シュィンッ、シュィンッ。
 橙色に輝く矢の群れが、カービィを襲う。
 カービィは、スターロッドを掲げる。スターロッドは強く輝き、カービィの身体に吸い込まれた。
 カッ。
 爆発する光。カービィに、翠(みどり)に白熱する冠が現れた。
「プラズマッ!!」

 コピー能力……。
 星の戦士には、皆、特殊な能力を兼ね揃えている。
 カービィの能力、それは、周りの気に同調して、その能力を自らに取り込む、コピー能力。

「プラズマバリア!!」
 ガキィンッ。
 透明な翠に輝くシールドが、カービィを覆う。
 矢は一本もカービィに当たらず、カービィを護った。
「イイねぇ…!ボク、感じてきちゃったよ…!!」
 マルクの狂気。カービィの正義。

「プラズマ波動弾!!!」
 カービィの掌から、白い光球。
「ヒャハハハハハハァッ!!!」
 マルクの掌から、黄金の光球。

 ズガァァァッッ!

 力と力のぶつかり合いは、強すぎる衝撃波を生んだ。
 双方が、その波動に吹き飛ばされる。
「くぅっ!?」
 ズザァァッ。
 カービィの身体が、硬いコンクリートに叩きつけられる。
「はぁ、はぁ……。」
 プラズマの能力は、とおに解けてしまっていた。
 痛みをこらえながら、マルクを見る。
 マルクは、片翼を巨大な落石に押し潰されて、ぐったりと、倒れていた。





 ……ズゥゥゥン…。

 地響きが、ワープスターの整備をするグーイの元にまで届いた。
 カービィは、グーイにワープスターを任せ、マルクとの決戦に向かった。
 ……とにかく、悪い予感がする。グーイは、すぐにでも、カービィの元へ向かいたかった。
 …カチッ。
「よし……これで、パワーは元に戻ったハズです…。
あとは……。」
 グーイは、ワープスターの心臓にアクセスする。そして、青白く輝くモニターに、手をかざした。
「僕は、星の戦士カービィに全権を許されし者、グーイ!
ワープスターよ!僕に従え!!」
 キィン。
 ワープスターに、光が灯る。





 マルクは、ぐったりと俯いたまま、動かない。
 気を失っているのだろうか。ならば、目が覚めないうちに取り押さえてないと……。
 カービィは、軋む関節を労使して、マルクの傍へ。おぼつかない足取り。
 ピクンッ。
 マルクの指が、撥ねた。
「!?」
 目の前のマルクは、顔を俯かせたまま、ガクガクと震えながら、瓦礫から這い上がる。
「そん…な……。」
 ブチィ。
 気色の悪い、嫌な音。鮮血の匂い。
 岩に押し潰されていた片翼は、そのまま潰されたまま。
「キ…ヒヒ……ヒァハハハハァ…ッ」
 片方の背中から、心臓の動きと同調して、どくどくと溢れる。血液。
 マルクは、もう片方……骨折して、もう飛べなくなった翼を掴む。
 ブチィッ。
 マルクの表情は、限りない快感。
「痛みを…感じないのっ!?」
 カービィの顔が、恐怖に蒼白する。
 強いすきま風。月の光がマルクを照らす。血が足りない肌の色。
 風でなびく血液。それは、もう一つの翼のように、頼りなく揺れる。
 呆然としているカービィに、強い衝撃が襲った。
「カハッ……っ!」
 呼吸困難。マルクの爪が、カービィの首に食い込む。
「だってサァ、ねぇ、君達がそうなんだよォ!
この運命とか世界とか、君とか!!
ボクは至ってマトモなんだよ……そうだよ、みんな……みんなが狂っているんだ!!」
 ガクン。
 意識が朦朧とする。
 強く、必死に言い放ったかと思うと、今度はとても寂しそうな、泣きそうな表情。
「違うよ……ボクじゃないんだ……
こんな世界が……ボクより……
ボクよりイっちゃってるんだ!!」
 ガクン。
「狂っている……なぁ、そォだろ!?」
 マルクの瞳は、孤独な深い紫。
 頭がスゥーっとして、クラクラする。

「愛しているサ…」

 全てが終わってしまう、その直前だった。



 ガガァァァッッ!



 衝撃。爆音。
「カービィさんっっ!!」
 キィィィンッッ。
 ワープスターは、凄まじいスピードで、マルクに突っ込む。
 そして、グーイの伸ばした腕は、しっかりとカービィの腕を掴んだ。
 ガァァンッッ。
 マルクは、冷たい鉄の壁に激突する。
 その眼が殺意に染まり、がむしゃらに、炎の弾を撃った。長い悲鳴を放ちながら。
「うわぁァあァァーーーーーー!!」
 ボゥンッ。
 それは、漂うガスとオイルに引火し、瞬間、爆発的な業火を放った。

「マ…マルクッ!!」

 荒い息で、うずくまるマルク。もう肉体の限界だった。
 ワープスターの窓から、腕を伸ばす。熱に晒される。

 マルクも、腕を伸ばしかけた。
 しかし、急にその顔は狂気の色に変わり、マルクは……腕を伸ばすことを止めた。
 カービィの驚愕の表情。炎がマルクの身体を舐める。
 マルクは、これ以上ないような、快楽的な笑みを浮かべていた。





 ……ガァァァァァンッ…。

 メックアイの一角が、真っ白な大爆発を起こす。
 そこには、もう何も残っていなかった。





 …イィィンッ…。
 ワープスターが、宇宙を翔る。
 大きな怪我をしてしまったカービィの代わりに、グーイが操縦している。
「…………。」
 沈黙。
「…………。
……マルク…どうして、助かろうとしなかったのかなぁ…?」
「…………。」
「……助かったのに……生きられたのに……。」
「…………。」
「……ぼく……結局、誰も助けられなかったのかなぁ…。」
「……カービィさん。」
 グーイは、言葉に力を込めた。
「僕は、カービィさんが助けてくれたから、生き延びることができたんです。」
「でも……グーイは、ぼくと出会っていたばっかりに、こんなコトに……。」

「カービィさん。
僕は、貴方と出逢ったから得られたこの幸せの方が、こんな痛みより、ずっと大きいです。
だから、僕は、誰も恨みません。
僕は、カービィさんと一緒に暮らしていて、本当に幸せですから。」

 カービィは、心が底から、熱くなっていくのを感じた。
 しずくが頬を伝う。

 ワープスターは、暗闇を翔る。
 限りない世界。この宇宙に、ワープスターは、頼りなく浮かんでいる。















 空は、闇の色。
 星も月も沈んでしまうくらいの、沈黙。

 マルクは、暗黒を漂う幾つもの光を眺める。
「………終わらないよ。
……なぁ…そうだろう?」
 ククッ。嘲笑。
 この眼に映る全てが虚像だというコトを知ってしまったから。
 恍惚な表情。
「なぁ…?
…カービィ……?」
 闇が微笑む。

 確かな実感。
 ボクはこの世界に勝った。



 END