First part ...DARKUESS 空は、闇の色。 星も月も沈んでしまうくらいの、沈黙。 マルクは、頬を流れる血を指でなぞって、その色を眺めた。 「………終わらないよ。 ……なぁ…そうだろう?」 くちゅ。 指に舌を絡ませて、味覚器官が鉄の味に痺れる。 恍惚な表情。 「なぁ…? …カービィ……?」 闇に微笑む。 バサア。 禍々しい金の翼が、闇を打つ。 カービィは、ゆっくりと流れる風を受けて、のんびりと寝っ転がった。 目を瞑ると風が薫る。白い雲も、ゆったりと泳ぐ。 「……あーっ、気持ちいいなー。」 にっこりと、一人で笑う。 ……グーイも来れば良かったのに。 グーイは、カービィの家に居候している、カービィの無二の親友。 とても優しい性格で、家事が全然できないその日暮らしのカービィの、大切な支えになっている。グーイは家事が趣味で、しかもその料理は絶品なのだ。 そう思いながら、グーイの作ってくれたサンドイッチの入ったバスケットに手を伸ばした。 コツン。 「いてっ!」 その瞬間、何かが額に落ちた。 「な、なぁに?」 ……手紙? 真っ白な表面に、黒い縁取りの手紙。差出人の名は無く、「KIRBY」とだけ書いてある。 「誰だろ?」 デデデ大王がグルメレースに招待してくれたのかなー♪ とか思いながら、ワクワクと内容を読んでみる。 ボクの愛しのカービィへ。 懐かしいね。ボクのこと、まさか忘れてないね? キミの大切なトモダチを預かったんだ。 メックアイって覚えてるよなぁ? そこで待っている。 早めに会いに来てね。ボク、血の色が大好きなんだ。 じゃあね。愛しの星の戦士様。 マルクより。 「……マ、ルク……」 呆然と呟く。 ボッ。 急に、手紙が放火した。慌てて手を離す。瑞々しい草花の上で、それはメラメラと燃え始めた。 「…………。」 あんまりの事で、思考がまとまらない。 鼓動ばかりが早鐘のように繰り返して、危険信号を発している。 グーイ。 「……グーイっ!!?」 だっ。 カービィは、草原を走り、木々を潜り抜け、足下で枝が弾け皮膚が破けるのも気にせず、走り続けた。 だっ。だっ。だっ。 丘に差し掛かる。この丘を越えたところに、カービィとグーイの家がある。もう少し。 「……グーイっ!」 白くてまあるい、シンプルな小さい家。 その中に住む親友に、早く危機を知らせたかった。 パチン。 軽い音が、した。 ボゥンッ。 大きな爆発。燃え上がる炎。 一瞬青く光った炎は、すぐに紅蓮へと姿を変えた。 「――ッッ!!!」 熱と破片の爆風が、カービィを直撃する。 衝撃に吹き飛び、身体がヒリヒリする。熱で、軽い火傷を全身に負ってしまっていた。 「グ、ぅ…イ………」 炎上する、家。火の粉が踊っている。 真っ暗な絶望感で、立ち上がることもできなかった。 パチン。 もう一度、軽い音がする。 「カービィーー!!!」 ボゥンッ。 カービィがさっきまでいた所は、真っ黒に煤け、燃える物質もないのに炎上した。 メタナイトは素早くカービィを抱き抱え、そして、金色の剣で空を裂いた。 とすっ。 群青のマントがひらりと揺れ、巨大な猛々しい黄金に輝く剣を構えた騎士。メタナイト。 カービィは、力無く彼に抱えられていた。絶望に染まった表情のまま。 「……小粋な真似をするな……マルク。」 虚空に呟く。次の瞬間には、そこは虚空ではなくなった。 「これだからオトナは、面白みがなくって嫌いサ。」 シュンッ。 風が斬れる音がして、マルクは不機嫌そうに現れた。 服の胸の辺り……丁度、心臓の上の位置が、ざっくりと裂けていた。メタナイトに斬られたのだ。 「あーあ。この服、気に入ってたのに。」 「黙れ。 貴様に、何も言う資格は無い。」 「そりゃー残念サ。」 ニッと笑う。 ザン。 メタナイトの一撃を軽快にかわし、後ろにまわり、ドンと蹴りつける。 「くっ!」 ザッ、ザッ、ザッ。 空気が刃となり、マルクを襲う。 「流石だネェ♪」 シュッ。 それらは一瞬で消え去り、代わりに、マルクの翼から、幾つもの鋭利な刃が飛び出した。 「お返し♪」 ザザァッ。 一斉に、メタナイトに向かう。 カービィを抱えているメタナイトは、圧倒的に不利だった。 メタナイトは、キッと厳しい顔で、カービィを殴つ。 「おいっ、カービィ!? いつまでふやけている!闘え!!」 それでも、カービィの心に、その言葉は届かなかった。 「…クッ!」 キィンッ、キィンッ、キンッ。 剣でその群れを叩き落とすが、間に合わない。 ギュン。 刃の一軍が、メタナイトに高速で向かう。 ドンッ。 カービィを抱え込んだ背中に、衝撃が走る。 「がっ… くぅ…ッッ!」 ぽつり。 汗の滴がカービィに落ちた。 「…め……メタナイト!?」 やっと正気に戻ったカービィ。メタナイトを次なる衝撃が襲い、さらに強く、カービィを抱いた。 「やっ…! …メタナイト!! 離してっ、血が…っ!」 「…ダメだ……私から…離れるなっ…… 怪我…す…… ッ、ぐぁっ!!」 カービィの瞳に涙が浮かぶ。 「へぇ……よくがんばったネ♪」 マルクは、無邪気な表情で、気を失ったメタナイトを見下ろした。 赤黒く濡れたメタナイトのマント。カービィは、それを抱きながら、怒りに満ちた顔でマルクを睨む。 「…よくも…グーイを…… よくも、メタナイトをぉおぉ!!!」 キィンっ。 メタナイトの剣を握りしめる。その瞬間、その剣は輝きを増した。 「うわぁぁあぁ!!!」 ふわり。 カービィが振りかざした剣は、大地に深々と刺さり、マルクは、にこにこと上空で微笑んでいた。 「じゃあネ☆ メックアイで待ってるから♪」 シュンッ。 マルクの姿は、消えた。 ……はぁ、はぁ、はぁ……。 剣を握りしめたまま、へたりと座り込む。 荒い息と、熱い鼓動の音だけが響く。溢れた涙が、ぽつぽつと、柔らかい大地に吸い込まれていく。 春の風が、通り過ぎていった。 |