最終話 上天の光



 カービィは、マルクの前にいました。
 ノヴァを止め、マルクを宇宙にまで追いつめたカービィでしたが、そろそろ体力が限界になってきていました。
 スターシップの砲門は、マルクに向けられていました。
 ……いや、ダークマターに。
「……ダークマター、そろそろ降参したらどう?」
 息切れをしながら言います。
「はは……っ
今回の星の戦士サマは恐いねぇ。」
 そして、身体の周りに青白い炎の弾をいくつか創り出し、
「降参するのは…おめぇのほうだろ!!!」

 ダン!!ダン!!

 沢山の弾を一気に放出します。

 パシュン!!パシュン!!

 カービィもスターシップで応戦します。
 闘いは行き詰まっていました。
 ほぼ互角の戦い。
 ………本当の星の戦士と、代理の星の戦士………
 終わるはずのない、ダークマターと星の戦士の闘い。
 カービィにとって、この闘いはとても辛いことでした。
「……マルク…」
「…ああん……何を言っている……ああ、この身体の持ち主か。」
「君は…ずっとひとりで戦っていたんだね……」
 カービィは、独り言のように呟きました。
「……ずっと……」

 ダダダダダ!!!!!!

 マルクはまるで機関銃のように、漆黒の弾を発射しました。
 スターシップは避けられずに、大部分を食らいました。カービィ自身にもダメージが届きます。
「……血迷ったことを抜かすんじゃねぇ
てめぇは俺の遊び相手になって、死ねばいいんだ。」
 そして、付け足すように言いました。
「それだけの命なんだからなぁ…」
 カービィは、ごほごほと血を吐きながら息を整えます。
「…逃げないで……」
「ああ!?」
「逃げないで……マ…ルク……」
「まだその名を呼ぶかぁ!?」

 ズダダダダダダダダダダ!!!!!!

 弾の乱射は、カービィの姿が見えなくなるまで続きました。
「…………!!」
 消えかけている体力で、弾に向き合うのは不可能でした。
 カービィも、スターシップもボロボロになり、欠けた破片はそこら辺に漂っていきました。
 ぐらり、と、カービィの重心がずれ、倒れました。
「はあ…はあ………つい感情に乗っちまったな……なぶり殺しが好みなのだが……まあしかたない………」
 ダークマターは息切れを起こしていました。
「でも……あいつは………確実に…死……」
「……………がう……」
「!?」
 かすかな声が広い宇宙に響きます。
「……ち……がう…………よ………」
 カービィがゆっくりと起きあがります。
 所々に血の跡が付いた顔に、かすれかすれになった瞳の光が強く脳裏に映ります。
 カービィの躰は輝いていました。
「そん……っ…まだ生きて………!!」
 崩れていくスターシップを乗り越え、ダークマターの元に歩んでいきました。
「……!!来るな!!」
「…お前は動けないよ……さっきの攻撃で……力は全部無くしたはずだから…………」
 カービィの言っていることは本当でした。ダークマターに力は残っておらず、3時間は身動きがとれません。
「……マルク……君が……たくさん……たくさん苦しんでいることは分かったよ………
でも…真実から……逃げちゃ…………ダメなんだ……」
 カービィは少し悲しい表情をみせ、
「………ダメなんだ………」
 カービィはもうマルクの目の前に来ていました。
「なにを……!!」
 カービィはマルクの頬にそっと手を置きました。
「やめろぉ!!」

 ガ!!

 ダークマターはカービィを足で殴りました。カービィは少しも怯みません。
「…カイから聞いたよ……千年前の過去の世界で…星の戦士の代理として………
『創られ』た……って…………」
「それがキミに何の関係がある!!」
 ダークマターは驚きました。自分の意志ではない声が出てきたのです。
 やがてそれは、底知れぬ恐怖へと変わりました。
 だんだん自らの意識が奪われていく恐怖。ダークマターが決して味わうことのなかった感情でした。
「そして……様々な出来事で不安定になった……心の中に……お母さんの死が……」
「やめろっ!!」
 カービィの声はマルクにかき消されました。
「やめろやめろやめろぉっ!!!!」
 怯えたような表情になり、激しく首を振り後ずさりました。
 そして、また……と、ダークマターは思い留まり、恐怖に満ちた眼でカービィを見ました。
 このままじゃまずい。
 心の奥で、まるで悲鳴のような想いがこだましました。
 このままじゃ消えてしまう。
 ダークマターは急いでマルクの中から出ようとしました。
 しかし、それは不可能でした。
「だけど……逃げちゃダメなんだ!!」
「うるさい!!!」
 その瞬間、大きな感情の波がダークマターを呑み込みました。
「ギ…アァァァ……」
 悲痛な叫びと共に、闇色の影が現れ、やがて消えていきました。
「キミに……何がわかるっていうんだ!!!!!」

 パンッ

 痛快な音が、静かにこだまします。
 マルクの頬は赤く染まっていきます。ジンジンとした痛みも次第に強くなります。
 マルクはきょとんとした表情をしていました。が、すぐに怒りの形相に変わりました。
「何を……っ」
 突然、カービィはマルクを抱きしめ、ぽろぽろと涙を流しました。
「……だから…ぼくがいてあげる……
せめて…これからの分の苦しみは……ぼくも一緒に……もらってあげるから……」
 マルクに、カービィの熱い涙がかかりました。
「だって……ぼくも星の戦士だもの。……そうでしょ?」
 涙が伝ったままの瞳で、ほほえみました。
 いつの間にか、マルクの眼にも涙が溢れ、視界がぼやけていました。
「……本当に……一緒にいてくれるの?」
 震えた声で言い返しました。
「…うん。」

 その一言で、
 マルクの中に潜んでいた何かが消え去りました。

 涙が、後から後から溢れました。
 声にならない叫びを上げながら、今はたった二人だけの宇宙で、泣きました。

「……ありがとう……」
 マルクはその一言に全てを込めました。
 カービィは、またほほえみました。

 少し遠くで瞬くポップスターに、やっと春らしき日だまりが訪れました。
 昼と夜が交錯する日々のなかを越え、やっと春が訪れたのです。
 それは、マルクの心の中にやっと差し込んだ、光のあたたかさに似ていました。
 あたたかい光は、いつまでも星を包み込んでいました。