第6話 闇に閉ざされし過去・後編



 たとえそれが、真実だとしても。

「ねぇ、カイ!?」
 ポップスター、クラウディーパークのとある場所。
 カービィは、必死にカイから何かを聞き出そうとしていました。
 カービィ達は、メックアイの激戦の後、ポップスターに一時的に待機していました。
「「星の戦士代理」ってどういうことなの!?マルクは……!!」
 カイは黙ったままです。カービィもそろそろ我慢の限界が近づいてきていました。
「カイ…!!」
「お前……星の戦士はどういう役割を果たさなければならないか覚えているか?」
「え?覚えてるよ……この宇宙を闇、ダークマターから守ることでしょう?」
「そう…星の戦士とは、そのために宇宙から生み出された特別な存在だ。そのため人々から崇められ、貴重とされてきた。」
「それで?」
「生まれる方法はただ1つ。「星の花」に想いが集まり、その想いを結晶化させることだけだ。」
「………」
 カービィも真剣な眼差しで聞いていました。
「星の戦士が生まれない時代もある。千年前がそうだった。そんな時代……人々は何をやったと思うか?」
「まさか…!!」
 カービィはいま自分の中にある考えを否定しようとしました。
「星の戦士「代理」とは、人工的に創られた星の戦士だ。」

 たとえそれが、真実だとしても。



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 永い夢を……見ていたのかな…………

 ……あたまが痛い…………

 ボクは……何をしていたんだろう……………

 何を……したんだろう………


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 プププランド中央病院 206号室
 マルクは白いベッドに横たわり、死んだように眠っていました。
「マルク……もう20日も眠ったままか…」
 1人の男性が、椅子に座りただ呆然とうつむいている女性に話しかけます。
「大王様…」
 女性は顔を上げました。マルクとそっくりの顔立ちで、体型もそっくりです。薄紫色のマントを付け、少し気品の高い雰囲気があるようでしたが、今は死期の近い老女のような顔をしています。目は、泣き疲れたのか赤くか細くなっていました。
 男性は、赤いコートを身につけ、金の縁取りの赤い帽子をつけていました。
 言うまでもありませんが、デデデ大王です。ただ、今よりだいぶ若いですが……
「私は……この子がこんなに悩んでいるなんて知らなかった……こんなことになるなんて……」
「リノア……」
 デデデは人のことを「さん」付けでは呼びません(「ちゃん」付けで呼ぶことは時々ありますが…)。この二人が「そのような」関係という訳では決して無く、ただデデデが、女性も男性も関係なく付き合う姿勢を絶対に崩さないだけです。デデデは続けます。
「大丈夫だ。マルクは……きっと目が覚める。お前さんが悪いわけでも、マルクが悪いわけでもない。
……大丈夫だ。」

 デデデはここのところ毎日、病院に通っていました。マルクのお見舞いに来ているのです。退校処分についての裁判の時も、少しでも罪が軽くなるようにがんばっていました。
 デデデには、マルクが自分のように思えました。過去の自分に……
 いじめられっ子で、どうしようもできなくて、いろいろと悩んでばかりの自分に……
 でも、今は違います。
 カービィと会って、いろいろな人と会って、変わったのです。
 自分のような想いにはさせたくない。寂しい気持ちになんかさせたくない。
 デデデは一心に、マルクを守ろうとしていました。

「……ぅ…ん………」
「!!」
 静かに、静かに、マルクの目がゆっくりと開きました。
「…うぅ………」
 マルクの視界に、白い天井が、明るいライトが、そして、自分の顔をのぞき込んでいる、デデデ大王と母リノアの姿がありました。
「…母さん……?大王…様…?」
「マルク…!!」
 リノアはマントを手のように動かし、マルクを抱きかかえました。
「…わしは医者を呼んでくるからな。」
 デデデはそう言うと部屋を出て行きました。リノアとマルクへの心配りかも知れません。
「母さん…?ボクは……」
「いいの…!!もういいのよ……」
 リノアは泣き崩れ、声は涙声になっていました。
 マルクは、理解してしまいました。
 自分が眠っている間に、何が起きたかを。

 もう、学校へは戻れないことを――。

 2日後、マルクは退院し、同時に学校を後にしました。
 別れの挨拶をしている間、みんなはマルクをまるで魔物でも見ているかのような、恐怖に満ちた目で見ていました。
 それでも、マルクは人事のように、無表情で、冷たく話し続けました。
 そして…最後に一言。
「―さよなら。」

 それから―――― 一ヶ月、二ヶ月と時は過ぎています。
 マルクはリノアの元で勉強をしたり魔術の練習をしたりしました。
 リノアの友人であるシミラ族のカイという人物も加わり、星天術に磨きがかかっていきました。

 記憶はあの日へと、今の始まりへと現代のマルクを導きます。
 非情に、冷酷に、あの日へと………



「ああ、今日はすっかり遅くなってしまったなぁ。」
 陽は西に沈み、空が紅に染まる時刻。さくさくと小気味よい音を響かせながら、マルクは雪の上を歩いていました。
「カイがなかなか放してくれないのだもの。でも、理由を言えば許してくれるかな。」
 マルクは笑いながら、雪の上を歩いていきます。家は、もうすぐそこです。
「ただいまっ……!?」
 木製の扉を開けて、暖かい光に包まれて、スープのおいしそうな香りのする湯気と共に、母が、たった1人の母が、笑顔で、迎えてくれる……
 はず…だった…………

「うっ…うわあぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 その叫びは、過去のマルクと、今のマルクが、同時に叫んだ声でした。



 たとえそれが、真実だとしても。