短編 はるかぜとともに



 空の青い日のことであった。

「…というわけでー、僕は君に盗まれた全!食べ物を取り戻しに来たワケなのだよ。
僕が来たからには、一人占めなんて許さないよーん。」
 …………。
 デデデは、軽く頭痛を感じた。
 状況を改めて把握してみる。
 目の前にいる、このふざけた桃色の髪の、高校生ほどの人物は、俺から盗んだ食べ物を取り返そうとしているわけで…。
 警備の奴らや部下は全員こいつにやられちまってて、残ってるのは俺一人だけで…。
 んで、当人は…
「いーざ、尋常にしょーぶ。」
 ……とか言ってるわけで…。

「ざけんなよ……大体、誰なんだ貴様は!?」
 デデデは、食べていたサンドイッチを投げ捨てて、言い放った。
 どげん。
 その瞬間に、そいつからの膝蹴りを食らう。頬骨が思いっ切り響いた。
 ……あまりにも突然すぎて、ワケもわからない。そのまま石畳に激突する。
 ずしゃーっ。
「食べ物を粗末にする奴ぁ、お天道様が許してもこのカストロ様が許さーん!!
……あ、カービィって呼んでくれていいから♪」
「誰が呼ぶかーーー!!!」
 気性がコロコロ変わる奴である。デデデは思わず叫んでいた。

「くそっ、気に入らねぇ……
勝負だ……カービィ。」
 いきなり呼んでるし。
「はじめっから言ってるじゃーん。
そいじゃーま、改めて勝負といたしますかぁ!」





 そして彼らは、なぜか用意されていたリングに移動した。
 リングの周りには、どこからともなくやっきてた観客で溢れかえっている。そして、天井やリングの床にはデデデのマークでいっぱい。
「へーー…すごい豪華なリングだね。でも趣味わるーい。」
「うるさい!
さぁ、カービィ、バトル開始だ!!ここが貴様の墓場となる…な!!」
「セリフまで典型的だねぃ。」
「黙れ!!」
 ギュンッッ。
 デデデの巨大なハンマーが、カービィの前髪を掠った。
「う、うわぁっ!?」
 思わずしりもちをつく。掠っただけなのに、前髪が焦げていた。
「うっひー、こりゃ余裕こいてる場合じゃないなー…
って、うひゃあっ!!」
 ギュン、ギュン、ドシャアッッ。
 猛烈な勢いで振り上げられるハンマー。それを力一杯リングに叩き付ければ、そこは焼け焦げ大破した。
「わっ、わわっ、わわわわわぁっ!?」
 空気にあまりにも重いエネルギーが摩擦することで、ハンマーを叩き付ける度に炎が生じ、衝撃も熱を帯びていた。
 デデデはそんな猛攻撃を軽く繰り出し、そしてカービィは防戦一方であった。
 ……しかし、カービィに本気で余裕が無かったのは最初だけで、徐々にデデデとの距離を縮め、彼の動きを分析する。
「ところでさぁー、どーして国民の食べ物全部奪っちゃったの?
ショッピングモールやお店にも圧力かけてまで……回りくどくない?」
「弱い奴らの生活なんざ、知ったことじゃないっ!!」
「詰まる所、弱いものイジメなワケだね。
王様として悲しいと思わないの?」
「黙れ!!!」
 ギュンッ。
 微かに、デデデの動きが鈍くなった。流石に疲れが生じたのだろう。
「まー、僕の場合」
 とんっ。
 カービィはデデデの正面で、にこーっとしながら顔を覗き込んだ。
「弱いものも強いものも、オールで大好きだけどね♪」
 それがあまりにも自然で無理のない笑顔だったので、デデデは一瞬、思考が停止する思いだった。
 しかし、ギラリとカービィを睨み、ハンマーを強く握る。

 ギュンッッッ。

「―――ッ!」
 それはモロに、カービィを右肩から襲い、そして、そのままリングの縄に叩き付けられた。
 バンッッ。
 カービィの身体が跳ね返り、床に倒れる。
 カービィは、しばらくそのまま動かなかった。
 デデデは勝利の笑みをこぼした……が。
 カービィから発されている、物凄いオーラが……デデデに本当の勝利を感じさせなかった。

「……怒ったよぉーーー……僕は本気で怒っちゃったもんねぇーい……。」

 ゴゴゴゴゴゴゴ。
 地響きのように轟く、カービィの怒りオーラ。ゆらりと起き上がった彼は、不敵な半笑いをデデデに向けている。……顔には、しっかりと青筋を刻み付けて。
「コピー能力、セットオーーーーン!!!」
 カッ。
 カービィが左の掌を掲げる。その掌には、金色の輝く星型の紋章があった。
 そこから、猛烈な光が溢れる。会場は真っ白に染まり、誰一人として眼を開けていられなかった。
「!?」
 デデデも驚いて、眼を瞑ってしまった。
 しかし、うっすらと眼を開けて光の中心を凝視しようとする。すると、そこには変化を遂げたカービィの姿があった。
 桃の髪にギュッと鉢巻をし、衣装は赤と青の半纏。
 そして、両手に掴んだ巨大な金色のハンマー。しかも、さりげなくデデデと同じデザインである。
「…な…!?」

「これはねー、僕の特殊能力、コピー能力!!
具体的に言うと、周りの気に同調するとこでその能力を取り込む凄い技!!
で!これはハンマー!!見ればわかるねっ!!
ズバリ通称ハンマーカービィ!!!」

 もう何を言っているのかもわからない。
 唖然としたデデデを、カービィは思いっきり睨む。
「鬼殺し火炎ハンマー!!!」
 叫ぶと同時に、燃えるハンマー。そのまま、デデデに突進する。



「チャー!
シューー!!
メーーーン!!!」



 バキィッッ。
 ……デデデは、天井に人型の穴を残して、天に旅立っていった。










「……まったく、大王様も悪いんですからね?
国民の食べ物奪って、大暴れして…。」
「……またそのお説教か、ポピー……。」
「お言葉ですけどねっ、僕は貴方のことを思ってこそ…!」
 言い合いをしているのは、デデデの側近の部下であるポピーと、彼に治療されるデデデであった。
「いでぇ!!た、頼むから包帯をきつく縛るなー!」
 半分涙目である。
「やっほーい。大王、ケガの調子どう?」
 かなり馴れ馴れしいこいつは、カービィ。一応見舞いらしく、リンゴを数個抱えている。
 ポピーは、むーっとして彼を睨んだ。
「全身打撲の上、右足は骨折。
いくら大王様が無駄に丈夫だからといって、何てことしてくれんですか、貴方は!」
「まーまーー。いいじゃん、結局無事だったんだし、全部丸く収まったんだし♪」
「少しは反省ぐらいしてくれてもいいでしょう!?」
 カービィに反省の色は無い。カービィはポピーをたしなめた後、ふっとデデデの顔を覗き込んだ。
 ……戦闘中にした、あの、リンゴの甘味のように、自然で無理のない笑顔で。
「プププランドの在住手続って、ここで出来る?」
「……好きにしろ、もう…。」
 デデデは、げんなりと溜息をついた。

 しかし、何故かそんなに、嫌ではなかった。






























 ……こう、屋上でぼーっとしてると、昔のことをよく思い出す。
 あいつがいた昔とは、ここから見渡す風景も、雰囲気も、そして自分自身も、大きく変わった。
 それでも、あいつがふらっと戻ってきたら、それだけでこの風景も雰囲気も自分も、あの頃に戻ってしまうだろう。
 ……あいつが戻ってきさえすれば。

「……カービィ。お前との約束は、まだ果たせてねぇよ…。
本当に現れるのか…?
お前が言ってた……二代目の星の戦士って奴はよ……。」

 空に向かって、ぽつりと呟く。
 そして、またヒマそうに、風景へ視線を落とした。

 ……ッッ!!!?

 ガタッガタタタッ。
 思いっきり、レンガの壁から身を乗り出す。
 視線の先には、遠くの田舎道を歩く、空色の髪の小さな子供。
 外見が似ているわけではない。が、大王には完璧な確信があった。
「あ…現れた!!ついに現れやがった!!!」
 そして、もっと近くで見ようと、さらに身を乗り出し…。
 …あ。





 ドッスーーンッ。
「なっ、なんでゲスか!?」
 バタンッ。
 エスカルゴンの部屋のテラスに、何か重いものが落下する大きな音がした。
 見ると、大王が頭から思いっきり石畳にめり込んでいる……しかし、すぐにガバッと起き上がった。
「へ、陛下?どうなされたでゲス?」
 そう質問する間もなく、デデデはエスの横をダッシュしていった。





 ズダダダダダッッ。
 大王は廊下を大疾走。廊下は走っちゃいけません。
「あ、大王様、どうしたん?
そんなに急いでー。」
 ダダダダダダッ。
 ……それこそ、話しかけるクラッコにも気づかないほど。
「あ!クラッコ!!
陛下がそこを通らなかったでゲスか!?」
 大王と比べると、かなりのスロースピードで走ってきたエスカルゴン。それでも彼の必死です。
「なんかなぁ、うちに気ぃつかんで、さっさと行ってもた。
何かあったんかぁ?」
 クラッコは関西弁の女性学者。かなりのマイペース。
「それが、私にもさっぱりわからないんでゲス…。
とにかく、追うしかないでゲショ!!」
 と、エスはダッシュで走り出そうとした。
「あっ、待ってぇな、うちも行くでーっ。」
「む、無理しなくていいでゲスよ、アンタは女性なんだから!」
 エスがそう言うと、クラッコは柔らかく微笑んで、
「ほうかー。ほな、ふたりでゆっくり行かな。
エスは優しいなぁー。」
 と、エスの腕に掴るのであった。





 ンダダダダダダダダーーーッッ。
 城の門から、大王が飛び出す。その辺を歩いていたワドルディを数体巻き込んで。
「あー!大王様!!何なさるんですか!?
ワドルディに謝ってくだ…。」
 ダダダーーーッッ。
 もちろん、そんなワドルドゥは無視。
「…何をあんなに急いでおられるのだ?陛下は。」
「あっ、メタナイト様……。
それがさっぱり。ワドルディ達を突き飛ばしてまで猛ダッシュなんて、よほどの事情じゃなきゃ……。」
「……まさか……また魔獣関連で…?」
 二人の間に流れる、暗い予感。
「……たっ、大変だー!
ワドルディ隊、出動ーーー!!」





 ダダダダダ……。
「えーとぉ……ここが、プププランド…だよね。
あーん、地図みてもさっぱりわかんない。どーしよう…。」
 ダダダダダダダ……。
「誰か親切なひとが教えてくれないかなぁ…。
それにしても、さっきっからの地響きは何だろう…まぁいいや。」
 ダダダダダダダ…ッ。
「お腹すいたなぁ…やっぱり、すぐに町に出なくちゃ…。
一人ぼっちだと寂しいし…。」
 ダダダダダダッ。
「よぉし!次に出会ったひとに、道を聞こう!そうしよう!」
 ダダダダダダダッッ!
 ずざーっ。
 そう決意していたその子の前に、茂みから突如現れた、なんか変なおじさんが登場。
 しかも息がかなり荒い。汗もしたたってる。見る人が見れば、充分変質者と間違えられそうである。
 その子もかなり驚いていた。しかし、彼は勇気を振り絞る。
「あ、あの……プププランドってどちらですか…?」
「貴様の名前は、カービィだな!?」
 おじさんの大声VS少年の勇気。大声のKO勝ち。
「えっ…!?
な、なんでぼくの名前を…?」

 デデデは、昔の「奴」のことを思い出し、そして、目の前の少年と重ねた。
 確かに、雰囲気もなにも、全然違っている。
 しかし、何か、大切なものを、この少年は確かに受け継いでいる。そんな確信があった。

 おじさんは、ゆらりと、愛用のハンマーを構える。昔から愛用し続けている、巨大なハンマー。
「勝負だ……カービィ。」

 空の青い日のことであった。