短編 混沌帰り



 ―――ぼくが発生したとき
 ―――貴方はひとりで泣いていた
 ―――声が枯れるほどに叫んでも
 ―――やはり貴方はひとりで
 ―――その
 ―――溢れる哀しみが
 ―――孤独が

 ―――ぼくを
 ―――生み出した
















 大地を焦がす戦火の薫り。
 黒ずんだ誰かの指とか骨とかがあちこちに転がっている。
 動くものは揺らめく炎に消え。
 影にうずくまる、
 濃縮されゆく怨恨が、ぼくを確かにしていく。















 眼を瞑ってみると、闇にたくさんの目線が張り付いているのがわかる。
 ぼくのことを捕えて決して離さない、眼。
 生まれ出たぼくをぼうっと見つめているだけの、眼達。

 ――大変だったね。

 ぼくはいつのまにかそう言っていた。
 闇にきららする眼は、何も答えはしないけれど。















 そのたくさんの眼から
 押し当てられる、憎悪
 悲哀の涙を零しながら
 血の色に似た負の執念




















 誰をも見つめることもなく。





 ただただ、

 返せと。

 失った全てを





 返せと。





























 そうだ
 ぼくは
 ここから
 生まれた






























 煙のように上昇し
 消えることのない
 幾つもの叫び声と
 逝くところもない
 邪にさえ近い情熱


















 自らの許容範囲を超えて
 魂から超越した
 その想い達が
 ぼくを
 生み出した


















 ぼくはその想いに答えるために

 光を侵す

 闇となった




















 混沌する闇から生ずる、渇望。

 ダークマター。

 全てに宿りし全ての闇を受け入れて

 いつか

 混沌に帰す。




















 闇を創ることで

 世界を循環させながら。





















 破滅という望みが不可能と知っても

 永久に抱き続けながら。