短編 下剋上



【ヒュージが生き残った場合】


お前の、槍と共に私を貫いた指は、私の中核に傷を付けた。
それよりも早く、私はお前の中核を砕いて割った。

これで、
お前は、存在することができない。
お前が崩れていくのが私にはわかる。
私はお前の残骸を喰う。

お前の砕けた核に触れたとき、
お前の眼が揺らいだ。
お前の、私とは違う色の髪の下にあった、
私と同じ色の眼、
同じものを見続けた眼。

お前は死んだ。
私の中心に、私の核の傷に、直接注ぎ込まれたお前の遺言。
「あなたは、ルビィさんを幸せにして下さい。」

同じものを愛したお前の眼、それが溶けて眼窩が残り
その骨格も私に呑み込まれる。
お前の闇が、
私の闇になる。

「……さあ、帰れ…………異端の君よ。
……グーイよ。」

お前は死んだ。グーイ。
私の中へ帰った。

お前は知っていたのか?
私に託した言葉の真意
幸せという言葉の意味を。

知っているのならば
教えてくれ

私はルビィの幸せになれるのか
幸せとは何なのか










【グーイが生き残った場合】


ねぇ、ルビィさん。
僕、ヒュージに、勝ちました。
僕、闇の王になりました。

ルビィさん
これで、誰もあなたを縛りません。
あなたはどこまでも、自由です。
……ルビィさん、
……だから……
……そんなに、悲しそうな顔、しないで下さい?

……ルビィさん……
……僕は、ヒュージを取り込みました。
僕は知りました。
ルビィさん、
あなたを縛り付けていたものは
ヒュージでは、なかったのですね?
闇ではなく、
あなた自身の
……悲しみ、だったんですね…?

ねぇ、ルビィさん
あなたの悲しみから生まれた僕は
あなたの悲しみを
癒すことは、できますか?
僕に何ができますか?

ルビィさん、
僕、勝ったんです。
……僕は……
ヒュージを、殺しました。

僕は、あなたを
自由にしたかった。
僕はあなたに、
もう一度だけ、笑ってほしかった。

……馬鹿ですね、僕。
…………
……僕は、間違っていたのですか…?
…………
……ねぇ……
……ルビィさん…?

……あなたの、
髪も、
瞳も、
声も、
肌も、
細胞も、
色も、
あなたの悲しみさえ全て
愛しています。

ルビィさん、
ヒュージも、僕も、
あなたを、幸せにはできませんでした。

だから僕は
ただひたすら
あなたを愛し続けます。
あなただけが、
僕に見える全てです。

……ねぇ、ルビィさん……
ヒュージの愛が、今、
やっと理解できました。