W 青い炎



 私はただ、ぼうっとした意識の中を漂っていた。
 眼は開いているはずなのに、何も見えない。色も分からない。これは闇なのか、それと光なのか。





 オ前ガ光の中ニ居ラレルハズ 無イジャナイカ










 あなたは生まれ変わるの











「ちょっと、それってどういうこと!?」
 フームの怒鳴り声が、城全体に響かんばかりに弾けた。エスカルゴンは思わず耳を押さえる。
「だ〜からさっきっからいってるでゲしょ!?陛下は最近、魔獣なんか頼んでませんって!!
だいたい、ナイトメア社に通信できないんでゲスよ!!」
「な……それは本当なの!?」
「こんなことに嘘言ってどうなるんでゲスか!」
 フームとブンは顔を見合わせて、デデデの王室へと急いだ。










 ―――耳鳴りがする。
 酷く気持ちが悪い。吐き気がする。

 暗い。

 私はどうしたというのだろう。

 ここはどこなのだろう。



「……あ、気がつきました?」
 誰かの声がした。誰だ?
 私はゆっくりと目を開く。
 ベッドに横たわっていたらしい。声をかけてくれたのは、水色の髪をした、可愛らしい少女だった。
「……お前は…? ここは、いったい…?」
 少女は、一回うなずいて、にっこりと笑う。
「私は、アディアといいます。
ここはブループラネットという星です。
私はこの星の看護士で、あなたのように、不時着した方の手当をするのが、お仕事です。」
 っといっても、まだ見習いなんですけどね。
 そう、彼女は笑った。無垢な表情だった。

 私は記憶を探る。
 ――名前は、メタナイト。特に家族は無し。
 魔獣を配信する会社「ホーリーナイトメア」社……を、経営する夢魔「ナイトメア」と戦った星の戦士軍のひとり。
 戦争は、こちらの敗北。
 何とか逃げるも途中で異星に墜落。
 その異星が、このブループラネット―――。

 大体の状況を判断し、起きあがろうと腕を動かすが、うまくいかず、痛みで崩れ落ちる。
「あの、まだ動かないで下さい!
あなた、まだすごくボロボロなんですよ!?」
 あわてて私を抑えるアディア。
 心配の色を浮かべる瞳。優しい娘だと思った。
 私は、仕方なく、再び眼を閉じる。





「せんぱーい!!」
 私が振り返ると、アディアはタタタと走り寄って、きゅっと腕にしがみつく。
 私は少し困ったような笑みを浮かべる。
「どうしたんだ? アディア。」
 彼女は、上目づかいに私を見上げ、マントを引っ張り、この頬に触れた。
「もぉ、健康診断する前に、出て行っちゃ駄目じゃないですか!
でも、もうだいぶ治ってるみたいですね。」
 彼女は、サラサラと私の状態をノートに書き込み、にっこりと笑った。
「よかった。先輩が元気になって。」

 私は、その後、その小病院の世話になり、肉体の回復を急いだ。
 この過ごしやすい星で平和ボケしてしまわぬよう、剣の訓練をしていたら、たちまち病院中の評判となってしまい、今では、訓練中は必ず、子供や若者が見物に来るようになってしまった。
 特にアディアには、その剣技を見られてからは、尊敬のまなざしと共に「先輩」と呼ばれ親しまれるようになり、気軽に、私につきまとってくる。
 この、慣れない平和な日々は、今まで戦いに生きていた私には優しすぎて、少し、怖い。
 ナイトメアの存在なんか、忘れてしまいそうになった。

 ―――忘れたままで、いたかった。





 夜の闇。
 私は、明日には退院できるぐらい回復し、明日には、船を直す作業を始めようと、夢心地を漂っていた。



 脳の奥から、影が迫る。
 それはあまりにも突然で、私は逃げることもできず、その闇に、精神を捕らわれる。
 それは一瞬で、状況の判断が不可能だった。



 虚ろな瞳で起きあがる。青い長髪がなびく。





 そうだ。思い出した。

 私の、本当の使命。

 私の、本当の姿。





 メタナイトの身体から、青い炎が上がる。
 強靱な翼が、背中を貫く。





 そこにいたのは、メタナイトではなく……

 ―――魔獣の王、シルバーアイの姿であった―――。