3.白昼夢(2 〜なくした欠片)



 メイスナイトは、久々に訪れる自分の部屋を見渡し、ふうっと溜息を吐きました。
 ずいぶんと、小さく見えます。当然でしょうか。この部屋は昔から変わらずにこうして存在し続けていましたが、自分は騎士団に入団し、そして数々の戦闘をこなし……昔とは、変わってしまいました。重たい荷物を降ろし、部屋の窓を開けます。冷たい風が入ってきました。
 母星のケビオスの徴兵としてハーフムーンにやって来たとき、まさかこうしてずっと、“騎士”として生きる運命になるだなんて、考えてもみなかった。
 そう思うと、メイスは不思議な、少し苦しい気持ちになりました。懐かしくもあり、辛くもある、あの時の決断と痛みの記憶を、思い出していました。

 惑星ケビオスは、鉱物や石材には恵まれていましたが、動植物といった生き物、自然に乏しい星でした。
 メイスはそこで生まれ育ち、厳しい環境の中で必死に体を鍛え、現在のように鉄球を振り回して戦えるだけの筋力の基盤を手に入れました。最も、彼が目指していたのは全く別、戦いとは無縁の職業でしたが。
 メイスは、彫刻家になることが夢でした。
 ケビオスという星の性質上、その星に育まれた腕の良い彫刻家や工芸師は、たくさんいました。メイスもそんな彼らに憧れていた1人で、現に、その星の水準の中でも非常に高い……鍛えさえすれば、歴史に名前が残せたかもしれない程に、彫刻家としての腕を磨き続けていました。
 メイスは、努力の人でした。大好きな彫刻を、少しでもいいから誰かに愛してもらえればと、その為だけに、がんばってきました。徴兵として数年間の戦士生活を強いられた時も、暇さえあれば木の枝や鉛筆を彫って、その腕を鈍らせないよう、いつか叶えるべき夢のために、本当に、がんばってきたのです。

 ある戦いの中で、メイスは両腕に大怪我を負いました。
 メイス自身は何とか一命を取り留めましたが、その指先は箸を掴むことすら辛くなり、当然、もう彫刻刀を握ることもできませんでした。
 動かない指。
 震える掌。
 何度も何度も取り落とした、彫刻刀。
 メイスは、しばらく何をすることもできませんでした。
 ずっとずっと目指してきた夢を閉ざされて、戦うことすらどうでもよくなって、だけど目の前には何もなくて、もう、何をすればいいのかも、わからなくなっていました。
 メタナイトと出会ったのは、そんな時でした。

 メイスは、そこまで思い出し、思わず苦笑いします。
 あの人には、本当に世話になった。こうして今「メタナイツ」にいることも、「メイスナイト」の称号を得ることができたのも、全てはあの人が上官として有ったからだ。
 夢を見ることを諦めていた自分に、もう一度、何かを目指すことを教えてくれた人。
 感謝しても、し切れない。
 だからせめて、一生をかけてでも、あの人を支えなくては。
 それは、きっと今メタナイツにいる全てのメンバーが、思っていることでした。
 みんな、メタナイトに救われていました。

 現在は動きを補助するグローブを嵌めているので、手の方はずいぶんマシになっています。まだ、昔のように自由に何かを彫ることは、とても難しくはありましたが。
 それでも、コントロールの利かない指を必死に使い、メイスは現在、一つの木像を彫っていました。
 無骨で、不格好で、繊細さのかけらもない……けれど不思議に力に満ちた、ハルバードの7人の木像でした。あと少し、ディティールを仕上げれば、完成が見えてきます。
 メイスは、荷物の中からその木像の雛形と、母星にいた時から使い続けている、愛用の彫刻刀を取り出しました。
 指ではなく掌で握った彫刻刀は、ブルブルと震えていましたが、それでも静かに、深く、木の像を抉り、形を作り出してゆきます。
 メイスは、一言も声を漏らさず、ただ木像を見つめていました。
 木を削る音だけが響きます。



 

「ぎゃああああああああああ!!!!!」
 時を同じくして、場所は変わって。そこは、ジャベリンナイトの部屋でした。物静かな皮肉屋のその部屋は、いつもは針を落した音でも聞こえそうなくらい静かでしたが、その日はうって変わり、まるで、鳥の首を絞めたかのような絶叫が溢れ出てました。テレビゲームのピコピコ音楽がそれに続きます。
「ハイ、俺の勝ーち。」
「なななななななッ、ばっ、ちょっ、ジャベリッ…!ぎゃあああああああー!!!」
 アックス、言葉になっていません。この悲鳴を聞きつけ、ハルバードの艦長であるリングス・スーが顔を覗かせました。彼の後ろには、ハルバードのお手伝い……兼、みんなのかわいい妹であるナギも、そっと付き添っています。未だ呻きながら頭を押さえているアックスに代わり、ジャベリンがニヤニヤと笑いながら答えました。
「こいつ、ゲーム弱ぇーんだ。俺のヨッシー相手にルイージで挑んで、この通り。惨敗。」
「……身長では、ルイージの方が勝ってたもん……。」
「お前、自分がチビだからって背ぇ高いキャラひいきし過ぎなんだよ。緑のヒゲが恐竜に勝てるかっての。」
「緑のヒゲ馬鹿にすんなよぉ!それにオレはチビじゃないっ、ジャベリンがデカすぎるだけだって!」
「いや、チビだ。」
「チビだな。」
 この会話に終止符を打ったのは、艦長でした。ジャベリンだけならまだしも、艦長にまで断言されてしまえば逃げ場もありません。アックスは、有無を言わさぬ高身長の2人をじっと見つめ、何か言いたそうに口をもごもご動かしていましたが、結局黙って座り込みました。テレビの中でへたり込んでいるルイージと、同じような顔になっています。ナギは、艦長やジャベリンの間を縫って、アックスの隣にちょこんと座りました。そして、哀愁を漂わせながらうなだれる彼の頭を、ぽてぽてと撫でてあげます。
 アックスは、まだ15にもならないナギの柔らかな顔に、確かな心配の色が浮かんでいるのを見て、苦笑いを返しました。そしてふうっと溜息を吐き、今度はしっかりした笑顔をナギに向けます。
「……うん。そうだよな。身長だけが男の全てじゃないよな……オレ、毎日牛乳飲むよ。希望は捨てないぜ。」
「…………――――。」
 アックスは、感謝の気持ちを込めて、ナギの頭をくしゃくしゃと撫でました。ナギはふんわりと微笑み、嬉しそうに顔をほころばせています。
 まるで実の兄妹のような2人の姿を見て、ジャベリンと艦長も笑い出しそうになりましたが、それは強気な宣戦布告に取って代わられました。仮面の奥のジャベリンの表情が、悪魔のように輝いています。
「さぁーて、第2回戦といくか?アックス。 艦長もどうだ?」
「いいな。こういうゲームは久方ぶりだ……せっかくだし、賭けでもしないか? わしは……そうだな、負けたらポップスター特産マキシムトマト一箱、土産に持ってきてやろう。」
 この言葉に、食いついたのはアックスです。急いで2Pコントローラーを操作し、次のキャラクターを選ぼうとしています。再びルイージでいくか、今度はクッパでいくか迷っているようでした。
 ジャベリンもまた別の意味で、おもしろそうに艦長を見ていました。艦長は3P用のコントローラーを持ちながら、「最近のコントローラーは妙にボタンが多くないか…?」と、不満そうな顔をしていました。
「艦長、あんた軍人辞めんのか? ポップスターなんて辺鄙な星、簡単にゃあ行けねぇだろ。ポップスター直産マキシムトマトは魅力的だが、出任せだったら賭けは無効だ。」
 艦長は、挑発的にニヤリと笑いながら、帽子をクイッと持ち上げました。野暮な心配するんじゃねぇぞ、若者。とでも言いたげな表情です。これが艦長でなかったら、ジャベリンは無表情になるくらいムカついていたでしょうが、艦長相手ではむしろ妙な高揚感を感じるくらい、楽しくなります。艦長は、ふっふっふっと思わせぶりに笑いました。
「わしは、今回の任期終了と共に騎士団から足を洗う。ハルバードもわしの管理下に戻して貰うつもりだ。そして、あの船で宇宙を旅する。それがわしの隠遁計画よ。」
「ほほぉ……騎士団所有の巨大戦艦の中でも相当に強い、と評判のハルバードを持ち逃げする計画とは……
ずいぶんアクティブな隠遁生活を予定してるらしいなぁ?」
 艦長は、テレビ画面に向けていた目をスッとほころばせ、イタズラっぽくウィンクしました。
「逃走と見られてもいいさ。あの戦艦はわしが造った。わしが好きなように使って、何が悪い!」
「正直なジジイだな。でも……そういうの、嫌いじゃねーぜ。」
 ジャベリンもまた、キャラクターを選択します。アックスは迷った挙げ句、再びルイージにしたようです。ジャベリンは、ほとんどすぐにキャラクターを決めました。今度はマリオです。艦長も、熟考の末クッパを選び終えたようでした。ステージ選択画面になり、ジャベリンがぼそりと呟きます。
「俺は……そうだな、ケビオス産のレアメタル一握りでどうだ? それなりの場所で売りゃぁかなりのもんだぞ。アックス、お前は何を賭ける?」
「え?」
 いきなり話題を振られ、アックスは慌てて思考を巡らしました。しかし、特に希少価値のありそうな貴金属や、惑星の名物というのも思いつきません。アックスの頭からは、今にも煙が出てきそうでした。ナギが再び、あわあわと心配そうに見つめています。
「オレ……オレはぁ……よっ、よし! 今回の給料半分!で、どーだっ!?」
 暴挙です。けれどアックスは自信満々でした。二度も負ける気がしなかったからです。……本人も、もう少し頭が冷えていれば、もしくは数十分ほど経った後だったら……暴挙だったと気づくことができたでしょう。
 艦長とジャベリンは、にんまりと笑いました。
 2人とも、アックスと同様……そしてアックス以上の確信を持って、負ける気が、しませんでした。
「……乗った。」
 2人の声が、同時に響きます。
 テレビゲームを通しての、壮絶なバトルが幕を開けました。




 魔獣に拷問を受け、精神に深い傷を負ったトライデント。
 戦争により夢を絶たれ、両手の自由を失ったメイス。
 ……そしてアックスとジャベリンにも、奪われたものがありました。
 2人には、帰るべき故郷がありません。
 アックスの出身地は、ホットビートでした。この惑星は星全体が灼熱に覆われ、人が生きられる場所がごく僅かでした。しかしその星で生まれた人達は、その狭い陣地で懸命に、そして必死に生きていました。
 この星には、代々伝わる伝説があります。
 太古の昔……この星は、今とは全く違う形をしていたといいます。そして、その星の住民は魔王ナイトメアに刃向かい、敵対していました。
 魔王ナイトメアは、この星への報復として、一体の魔獣を遣わせました。
 その魔獣は地上の全てを焼き払い、人も国も、それまでの文化も、全てを呑み込む炎でした。
 魔獣は惑星そのものを破壊しようとしましたが、これを止めたのもまた、ナイトメアでした。ナイトメアは、慈悲としてこの星を生かしたのです。慈悲として、そして、他の星への見せしめとして。
 星の性質が変わるほどに焼け爛れたその姿に……周りの星々はおののきました。そして、ナイトメアの力の強さを知りました。……これが、現在のホットビートの誕生に纏わる物語です。しかし、伝説には続きがありました。
 それからというもの、生き残った人々は新しい文化を築き新たな歴史を歩み始めましたが、そのなかに奇妙な存在が、まるで湧きだしたかのように、ポツポツと現れるようになったのです。
 それは、炎の魔獣が星を焼き払った際に放出したエネルギーが、呪いとなり、星に留まった一つの形でした。
 その子供達は皆一様にツノを持ち、尋常ではない力を持ち、また、強い魔力も持っていました。体も非常に丈夫で、普通ならば死ぬような傷を負っても、数日で治ってしまいます。
 人々は、そんな子供を「鬼仔」と呼び、忌み嫌いました。
 アックスは、そんな鬼仔として生まれた子供でした。
 親からはすぐに引き離され、奴隷のように扱われました。逃げようとしてもすぐに捕まり、焼けた鎖で鞭打たれます。それで負ったひどい傷も数日で治ってしまうので、それを完治させる時間さえ与えられず、再び奴隷同然に働かされます。鬼仔の力を利用し、そしてコントロールするため、代々鬼仔に生まれた子供には、このような運命が強いられてきました。けれど、アックスはその中では幸運だったのです。彼は魔力を抑制し、支配するための刺青を全身に入れられる前に、その能力を評価した星騎士団本部から入団を薦められました。そして、母星から逃げるような形で、騎士団に入団したのです。
 入団してからの彼は、ようやく、自分の力が誰かの為になる、その喜びを知りました。自分の力が生かされ、自分の力が必要とされ、騎士団の一員として存在できる幸せ。アックスは、ようやく仲間と呼べるような人達と、一緒にお喋りしたり戦ったりすることができるようになりました。
 ある戦闘で、アックスの軍は致命的な失敗をしました。
 その失敗の取り返しはつかず、そしてそれを顧みることもできませんでした。アックス達は敵に囲まれ、逃げることも進むこともできませんでした。ただがむしゃらに戦い、無我夢中で斧を振るい、それでも敵はなくなりません。
 一人、また一人と、味方が倒れていきます。アックスは戦いました。戦って戦って、そしていつの間にか、自分の後ろにもう誰もいないことに気が付きました。皆、大地に倒れ、血を流していました。ピクリとも動きませんでした。
 アックスは、自分は強いと思っていました。この力を誰かのために使える事を、嬉しいと思っていました。
 しかし、どうでしょう。気が付いてみればもう、味方の一人も守ることもできず、ただがむしゃらに斧を振るっていただけでした。
 アックスの顔に、絶望の影が差します。
 パシュッ!
 アックスの右眼が、銃で撃ち抜かれました。
 パシュッ、パシュッ、パシュッ!
 頭蓋骨の上、肩、脇腹……次々と、アックスの体に穴が空いてゆきます。アックスは、地面に倒れました。頭の中は空っぽで、もう立つこともできませんでした。
 そのまま死ぬか、と、思いました。
 ズシャッ!
 ……それは、異質な音でした。薄れる意識の中で、ふと、頭上を見上げます。見慣れぬ男が、そこに立っていました。男は槍で、敵の喉笛を一発で仕留めていました。彼の落した銃を拾い、他の奴らにぶち込みます。容赦も躊躇も全くない、ただ「殺すため」の戦い方でした。
 ……ああ、ここは戦場なんだ……。アックスは、闇に溶けていく意識の中で感じました。守るべきものを守るためには、ただ武器を振るうだけじゃダメなんだ……。
 アックスは、自分を助けてくれたその男の姿を、じいっと目に焼き付けました。男の体は半分以上が鉄できているかのように冷たくて、その表情もまた、哀れなくらい無機質でした。
 ……この人は、こういう風に戦うために……どれだけ多くを、失ったのだろう……――――。
 アックスの意識は、そこで途切れました。

 アックスが男の名前を知ったのは、治療を受け一命を取り留めた少し後でした。鬼仔の生命力が無ければ、確実に死んでいたそうです。男の名前は、ジャベリンナイトと言いました。
 ジャベリンナイトは、何も持たない男でした。故郷も家族も友人も、全てを忘れて生きていました。肉の体さえ捨てて……血の温かささえ捨てて。あの男は、その一生を戦争と裏切りと殺戮に投じてきた男だと、病院の誰かから訊きました。
 ジャベリンは、アックスが一命を取り留めたという情報にも何の感慨も感じていなかったので、アックスがその後わざわざ彼の元へやって来たりしなければ、彼のことなどすぐに忘れていたでしょう。忘れられなくなったのは、アックスがこう訊いたからでした。
「なんで、オレを助けたの?」
「あ?」
 ……ジャベリンは、不機嫌そうにアックスを見返しました。面倒そうに、ひらひらと手を振ります。
「まだ生きてる魔獣の奴らがいた。だから消しに行った。それだけだ。」
「でも、助けを呼んでくれたんだよね?」
「……うっぜぇ。騎士団の方針サマって奴に従っただけだ……あん頃はヘビーナイトの野郎にやたら注意されてたからな。まだ生きてる奴をほっといて殺したなんてバレたら、今度は警告なんかじゃ済みそうもなかったし…」
「ありがとう。」
「……あ?」
 アックスは、包帯だらけの顔をギュッと引き締めて、背中にかけていた斧を置き、ジャベリンの前に跪きました。これは、ホットビート人特有の、敬礼の仕草でした。
「このアックスナイト、財産も家財も無く、根無し草のこの身ですが……
どうか恩義を果たさせて下さい。この一生をかけてでも、ジャベリンさんにお供します!」
 ……土下座。
 ジャベリンは……ジャベリンは、この田舎風情の人情家を、箒で掃いてどっかにやれたらどんなに良いかと思いました。内心では呆れ果て……開いた口も塞がらない感じです。ジャベリンは考え抜いた末……ぼそりと、小さく呟きました。
「……ジャベリンさん、ってのまず止めろ。柄じゃねぇ。
あと、とりあえず消えてくれ。チビにやれる仕事なんかねーよ。」
「チビ言うなぁ!これでもナイトの称号持った立派な騎士なんだぞぉ!」
「うるせぇチビ。とりあえず俺のことは忘れろ。俺もお前のこと忘れるから。じゃ、あばよ。」
「あーっ、こら逃げるなっ! チビ言うなー!!」
 ……これが、アックスとジャベリンの出会いとなりました。
 今アックスは、深い傷を負った顔半分を隠すように、ガイコツの仮面を被っています。それは、ジャベリンの仮面と同じ職人に、こっそり頼んだものでした。お揃いだね、と笑って言うアックスに、ジャベリンは心底からの呆れ顔を返しました。

 信頼していた仲間達と、顔半分を失ったアックス。
 優しさも血肉も、温かいもの全てを忘れて生きる道しか選べなかったジャベリン。
 2人は時の流れの中で、メタナイトの下に集まることになりました。
 実力はありながらも、欠けたものを背負い、他の部隊から煙たがられていた数人が、たまたまなのか、必然なのか。とにかく、いつの間にか集まっていました。
 船に乗っていたのは、天才的な技術力を持ちながらも一線から退いていた戦艦製造者と、戦争のトラウマで言葉を失った少女、ナギ。
 彼らを統べることになったのは、騎士団長の娘でありながら団長の地位を継がず、ただ戦いの世界に身を置き剣と己を鍛え続ける最強の剣士、メタナイト。
 その奇妙な、はぐれ者とさえ呼べる人々で形成されたその特殊部隊は、ある時から「メタナイツ」と呼ばれるようになりました。
 皆、戦争によって何かを奪われ、けれど戦争の中でしか、生きられない者達でした。
 欠けた彼らは傷を負い、折れそうな足で、立っています。
 それでも、倒れることはありません。
 欠片同士が噛み合い、寄り添い合うように……彼らもまた、共に繋がり、お互いの足で支え合っていました。
 メタナイツとは、そういう騎士達でした。





 トライデントは病院からの帰り、唇を噛みながら俯いていました。しかし、ジャベリンの部屋のドアノブを開けた瞬間、「あーーっ!!」という悲鳴が響き渡り、それにギョッとして顔を上げます。……目の前では、アックスが床に突っ伏して、ツノがめり込むくらい頭を抱えていました。
「なっ、なんで負けるんだぁぁ〜〜!!? オレのルイージコンボは完璧だったはずっ!!さっ、さてはジャベリン、チートを…!!?」
「腐ったこと言うんじゃねぇよ。これがマリオの実力だ。それとも何だ?もっと見せつけてもらわねぇとわかんねぇか?」
「ムガー!! もっ、もっかいもっかい!これ無し!もっかい!」
「どう見てもアックスの惨敗だろう。ジャベリン、わしとは引き分けだったな。どうする?」
「チッ……老い先短ぇジジイの癖に……。アックス、お前の掛け金給料全部にしろ。そうしたら再戦してやろう。」
「ううっ! ……な、7割じゃ……ダメかな?」
「決まりだな。艦長、今度こそはトマトおごってもらうぜ……」
「急くな、若造。わしのクッパは隙を見せんぞ……」
「むぅぅ〜〜、今度はルイージじゃなくてワルイージでいこっかなぁ……」
 再びゲーム画面に見入る男3人。トライデントとナギは顔を見合わせ、クスリと笑いました。そして、3人に語りかけます。
「ジャベリン、あんまりアックスをいじめちゃダメですよ。艦長も、無理しないで休憩を入れて下さいね。目に悪いです。」
 ジャベリンと艦長は、心得てる、とでも言いたげに、片手をひらひらと振りました。アックスはそれどころではなく、真剣にキャラクターセレクトに興じています。トライデントはナギの柔らかな手を取り、小さな笑みを浮かべます。
「私達は、先にお昼を頂いてますね。メイスも呼んできますから、早く来て下さいよ。」
「わかってるってー……あーっ、今度はオレがクッパ選ぼうとしたのに!」
「遅ぇ方が悪いんだよ。俺はピーチな。」
「ふっふっふっ、わしのクッパファイアーで焼かれるがいい!」
「そんな技名じゃねぇよ……。」
「……やれやれ。」
 トライデントの苦笑は、けれど愛しさに満ちたものでした。
 この時間、この空間の温かさが、否応無いほど温かく、優しいものに感じました。
 ナギの手を取りながら、廊下の向こうの空を見ます。
 人口液晶で作られた偽りの空は、今日も曇り無い青空です。